日本全国のJR線に乗り放題の青春18きっぷですが、「日本全国」がどんどん狭くなっています。整備新幹線の開業に伴うJR線の第三セクターへの移管により、青春18きっぷで乗れない区間が増えてきているのです。そんな青春18きっぷの「三セク問題」を考えてみます。
※2020年に投稿した記事を最新化&リライトしました(2024.06.18)
青春18きっぷの「三セク問題」
青春18きっぷは、日本全国のJR線の快速列車・普通列車に乗り放題となるフリーきっぷです。5回分で12,050円、1日あたり2,410円でJR線が乗り放題という安さとフリーエリアの広さが魅力です。
そんな青春18きっぷですが、ここ20年ほどの間に、かつては乗車できた路線や区間が乗れなくなってきています。それは、JR線の主要幹線の一部が第三セクターに移管されてしまい、「JR線」ではなくなってしまったからです。
整備新幹線として建設、開業した区間では、同じ区間を走る在来線をJRから経営分離し、沿線の自治体が運営する第三セクター会社が引き継ぐことになっています。最初の整備新幹線として開業した北陸新幹線(開業当初は長野新幹線)の軽井沢~篠ノ井間が「しなの鉄道」に移管されたのが1997年10月。それから25年ほどの間に、以下のような路線・線区が第三セクターに移管されています。
移管日 | 整備新幹線 開業区間 |
旧JR線名 | 移管された区間 |
---|---|---|---|
1997年10月1日 | 北陸新幹線 高崎~長野 |
信越本線 | 軽井沢~篠ノ井 |
2002年12月1日 | 東北新幹線 盛岡~八戸 |
東北本線 | 盛岡~八戸 |
2004年3月13日 | 九州新幹線 熊本~鹿児島中央 |
鹿児島本線 | 八代~川内 |
2010年12月4日 | 東北新幹線 八戸~新青森 |
東北本線 | 八戸~青森 |
2015年3月14日 | 北陸新幹線 長野~金沢 |
信越本線 北陸本線 |
長野~直江津 直江津~金沢 |
2016年3月26日 | 北海道新幹線 新青森~新函館北斗 |
江差線 | 五稜郭~木古内 |
2024年3月16日 | 北陸新幹線 金沢~敦賀 |
北陸本線 | 金沢~敦賀 |
東北本線の盛岡~青森や、信越本線・北陸本線の長野~直江津~金沢~敦賀など、かつては特急列車がたくさん走っていた主要幹線が第三セクターに移管されています。新幹線が並行して走るような区間ですので、青春18きっぷの旅でも、都市間移動の際に利用価値の高かった路線です。
今後も、青春18きっぷのエリアは狭まっていきます。JRの在来線全線という青春18きっぷのフリーエリアからすれば、これらの線区はごくわずかと言えるかもしれませんが、前述のように「主要幹線」だった区間です。これらの区間がフリーエリアでなくなることは、青春18きっぷの利用価値に大きく影響してくるのです。
運賃が高い第三セクターは青春18きっぷユーザーに避けられる
第三セクターに移管されたとはいえ、もちろん列車は走っていますので、青春18きっぷの旅だったとしても、正規の運賃を支払えば乗車することはできます。
ところが、第三セクターは経営が厳しいところが多く、たいていはJR線よりも運賃が高く設定されています。青春18きっぷの「安さ」に魅力を感じて利用している人が多いため、高額な運賃を別途支払わなくてはならない第三セクターは避けられてしまう傾向があります。
例えば、旧東北本線の盛岡~青森間は、IGRいわて銀河鉄道・青い森鉄道の三セク2社を乗り継ぐ必要がありますが、運賃は合計で5,590円。青春18きっぷ1日分が2,410円ですから、この区間に乗ることが目的でない限りは、別の経路に迂回されてしまうでしょう。
もっとも、このような青春18きっぷの通過利用を対象としたきっぷを発売している第三セクター会社もあります。
- トキ鉄18きっぷ(1,000円,えちごトキめき鉄道全線に1日乗り降り自由)
- おれんじ18フリーきっぷ(2,100円,肥薩おれんじ鉄道全線に1日乗り降り自由)
これらは、当日有効な青春18きっぷを提示すると購入できるきっぷですので、明らかに青春18きっぷ利用者を対象としたフリーきっぷです。別路線へ迂回されてしまうくらいなら、普通運賃よりも大幅に安いきっぷを発売して、乗ってもらおうということでしょう。
とはいえ、このようなきっぷを発売しているのは上記の2社のみ。他の第三セクター会社でも、普通運賃よりはお得になるフリーきっぷや割引きっぷを発売していますが、青春18きっぷの安さに比べると、青春18きっぷに加えて「別途支払うには高い」という印象です。
第三セクター区間を安く通過する方法については、以下の記事にまとめていますので、ご覧ください。なるべく安く移動できる手段を乗せてはいますが、それでも青春18きっぷに比べると「高い」と思われるでしょう。
青春18きっぷで第三セクターに乗れるようにすることは可能か?
ユーザー目線では、多少の値上げがあったとしても、青春18きっぷで第三セクター路線に乗れるようになると、利便性がかなり向上しますね。
ところが、少しの値上げで第三セクター路線に乗れるようにするには、いくつか課題がありそうです。
- 青春18きっぷ売り上げの取り分が少ない
- 回数券代わりに使われてしまう
- 青春18きっぷ利用者のための増便が必要になる
それぞれ考察してみます。
1. 青春18きっぷ売り上げの取り分が少ない
青春18きっぷは、JR各社の駅の窓口や指定席券売機などで発売していますが、どの会社で購入しても効力は一緒。つまり、日本全国(JR旅客6社)の在来線全線に乗り放題です。
青春18きっぷは自動改札に通せませんので、ある会社の窓口で購入された青春18きっぷが、どの会社のどの路線で、どのくらい使われたのかを知る術がありません。つまり、JRの会社間で、利用実績に応じた清算ができないということです。
とはいえ、何らかの形で、みなし清算をしているのではないかと思われます。考えられるのは、
- 清算なし(ある会社の売り上げが、そのままその会社の収入になる)
- 在来線の路線長に応じた精算
- 在来線(普通列車)の乗客数・乗車人員に応じた精算
といったところでしょうか。
青春18きっぷの販売枚数や、どのように各社で清算しているかについては、情報が公表されていないため、実際のところはわかりません。
ただ、一つ言えることは、第三セクター路線を青春18きっぷのエリアに含めたとしても、その第三セクター会社の取り分はかなり少ないだろう、ということです。
たいていの第三セクター会社は1路線、それも全長で数十キロ程度の路線しか保有していません。上記のいずれの方法で清算したとしても、第三セクター会社の取り分は、ごくわずかになってしまいます。
2. 回数券代わりに使われてしまう
青春18きっぷは、利用できる期間中であれば、どの日に利用してもよいというルールになっています。そのため、ある程度の距離・運賃になる区間を何度か往復するような場合には、乗車券を購入するよりも、青春18きっぷを使ったほうが安くなる可能性があります。
これはJR線にも当てはまるのですが、運賃が高額な第三セクター路線では、より短い区間で、乗車券よりも青春18きっぷ1回分の方がお得になるのです。
ここで、仮に、第三セクター路線をフリーエリアに含めた「青春18きっぷ(改)」を、14,000円(1日あたり2,800円)に設定したとします。そうすると、片道1,400円以上の距離を乗るのであれば、青春18きっぷのほうがお得ということになります。
これを念頭に置いて、各社の「片道1,400円」前後の距離と所要時間を見てみます。
- | JR東日本 |
IGRいわて 銀河鉄道 |
青い森鉄道 | しなの鉄道 |
---|---|---|---|---|
片道1,500円 距離 |
~80km (幹線) |
- | ~60km | - |
主要駅間の例 |
東京~梁川 77.6km 1,340円 |
盛岡~小繋 52.2km 1,470円 |
青森~乙供 57.6㎞ 1,360円 |
軽井沢~篠ノ井 65.1km 1,470円 |
普通列車の 所要時間 |
約1時間40分 | 約51分 | 約55分 | 約1時間20分 |
JR東日本の運賃は80kmまでで1,340円となっていますが、IGRいわて銀河鉄道、青い森鉄道では、いずれも50km~60km程度、所要時間50分台で1,400円を超えてしまいます。しなの鉄道は、これら2社よりは多少安いですが、それでも65km程度で1,400円を超えます。
このように、JRに比べて運賃が高い第三セクター路線では、青春18きっぷを回数券代わりに利用したときに、元を取れる距離が短いということになります。
そして、前述の「1. 青春18きっぷ売り上げの取り分が少ない」という問題とあわせると、わずかな取り分しかない青春18きっぷを回数券代わりに使われてしまうことは、第三セクター会社にとっては、とても許容できないことであるとわかります。
3. 青春18きっぷ利用者のための増発・増結が必要になる
JR各社にとって、青春18きっぷは、列車の増発などの設備投資をすることなく、格安旅行の需要を喚起できる商材として使われています。
路線によっては増結などが必要になることもありますが、JRの路線網はとても広いため、青春18きっぷを販売することによるコスト増の影響は、全体から見ればごくわずかでしょう。
一方、第三セクター路線はどうでしょうか?
第三セクター路線に青春18きっぷで乗れるようになると、もともと都市間を結ぶ幹線だったこともあり、かなり多くの青春18きっぷユーザーが乗車するようになると思われます。
前述のとおり、第三セクター会社の路線網は、基本的に1路線のみ、路線長もそれほど長くないところが多いです。そのため、青春18きっぷによって乗客が増える影響は、かなり大きいと考えられます。また、持続的な経営を考慮して、編成両数を最適化(縮小)している路線も少なくありません。その場合は、増便・増結が必要になる可能性もありますが、その分のコストを、青春18きっぷの売り上げの取り分だけで補うのは難しいと思われます。
「北海道&東日本パス」はなぜ第三セクター路線に乗れるのか?
これまで見てきたように、元々JR線だった第三セクター路線を、単純に青春18きっぷのエリアに組み込むのは、なかなか難しそうです。
ところが、青春18きっぷの姉妹きっぷとも言える「北海道&東日本パス」では、旧東北本線だった青い森鉄道線(青森~目時)とIGRいわて銀河鉄道線(目時~盛岡)に乗車できるのです。
ここで、「北海道&東日本パス」の概要を簡単に紹介しておきます。
- JR北海道・JR東日本・青い森鉄道・IGRいわて銀河鉄道・北越急行の普通・快速列車の普通車自由席、BRT(バス高速輸送システム)に乗り放題
- 有効期間は連続する7日間
- 大人 11,330円、小児 5,660円
詳しくは、以下の記事をご覧ください。
さて、「北海道&東日本パス」では、一部の第三セクター路線に乗車できるわけですが、上で述べた問題をどのように解決しているのかを考えてみます。
【1. 青春18きっぷ売り上げの取り分が少ない】
これについては、フリーエリアが青春18きっぷより狭いことで解決しているのではないかと思います。青春18きっぷがJR旅客6社であるのに対して、「北海道&東日本パス」はJR北海道とJR東日本の2社のみ。青春18きっぷに比べて、相対的に、第三セクター会社の取り分はかなり増えそうです。
さらに、青い森鉄道線は全長121.9km、IGRいわて銀河鉄道線は全長82kmと、第三セクター路線としては、路線長が比較的長めです。そのため、これら2社の取り分がそれなりにあるのではないかと想像できます。
【2. 回数券代わりに使われてしまう】
「北海道&東日本パス」が青春18きっぷと根本的に異なるのは、有効期間が連続する7日間である点です。青春18きっぷは、期間内であれば、利用したい日に使うことができますが、「北海道&東日本パス」は、いったん利用を開始したら7日後には利用できなくなります。
そのため、任意の日に1回分利用するという回数券的な利用がしにくいきっぷになっています。
【3. 青春18きっぷ利用者のための増便が必要になる】
これは、「北海道&東日本パス」でも青春18きっぷでも同じ問題です。そのため「北海道&東日本パス」であれば解決できているとは言えません。
唯一、違いがあるとすれば、青春18きっぷに比べて、「北海道&東日本パス」の利用者が少ないということでしょう。そのため、相対的に「北海道&東日本パス」の利用者が、第三セクター路線のふだんの乗客数に占める割合が少なく、問題が顕在化しにくいということは言えるかもしれません。
青春18きっぷの安さ・柔軟性を失わずに第三セクター路線に乗れるようにするには?
「北海道&東日本パス」が、どのようにして、青い森鉄道線、IGRいわて銀河鉄道線という第三セクター路線に乗れるようにしているのか、という点について考察してみましたが、それでは、これを青春18きっぷに単純にあてはめることができるでしょうか?
結論からいうと、青春18きっぷの魅力である「安さ」、そして、期間内であれば好きなときに利用できる「柔軟性」を犠牲にせずに、第三セクター路線に乗れるようにするのは、かなり難しいと言わざるを得ません。
青春18きっぷ売り上げの取り分が少ない問題は、青春18きっぷのエリアを狭くすれば解決するかもしれませんが、それでは青春18きっぷの「JR全線がフリーエリア」という一番のメリットがなくなってしまいます。
また、回数券や定期券的な利用を避けるために、「北海道&東日本パス」のように有効期間を「連続する5日間」にすることも、青春18きっぷの柔軟性や利便性を損なってしまいます。比較的、時間に自由のきく学生さんやリタイアされた方であれば、「連続する5日間有効」を活かせるかもしれませんが、会社勤めの社会人にとっては使いづらいきっぷになってしまいます。
それでは、どうすればよいのでしょうか?
青春18きっぷで第三セクター路線に乗れるようにする現実解は「オプション券」方式
「青春18きっぷでそのまま第三セクター路線に乗れるようにする」という問題に対して、完全な答えにはならないのですが、現実的な解決策としては「オプション券」方式しかなさそうです。
「オプション券」方式とは、当日有効な(当日の日付印の入った)青春18きっぷを持っている乗客に対して、第三セクター路線の一部または全路線に乗車できるきっぷをオプションとして販売する方式です。青春18きっぷの例では、「北海道新幹線オプション券」が該当します。
前述のように、えちごトキめき鉄道の「トキ鉄18きっぷ」(1,000円)や、肥薩おれんじ鉄道の「おれんじ18フリーきっぷ」(2,100円)のように、有効な青春18きっぷを持っている人だけが購入できるフリーきっぷがすでにありますが、これを、JR6社と第三セクター会社が協力して、青春18きっぷのオプション券という位置づけで販売するということです。
路線にもよりますが、利用者目線からすると、青春18きっぷの価格を据え置くのであれば1,000円~1,500円程度、青春18きっぷの価格を少し値上げするのであれば1,000円程度が妥当でしょうか。第三セクター路線は県ごとに会社が異なるので、隣接する2~3社の路線に乗車できるオプション券もあるとよいと思います。
第三セクター会社の視点では、青春18きっぷ1日分(2,410円)+オプション券の合計が、利用者の主要駅間の往復運賃より高く設定できれば、回数券代わりに利用されることもなくなるはずです。
「オプション券」方式であれば、第三セクター各社の取り分をオプション券の売り上げとして確保できますし、当日有効な青春18きっぷを持っている人にだけ発売するのであれば、単純に回数券として利用されてしまうデメリットも軽減されます。
今後も「わかりやすくて便利な」青春18きっぷのために
オプション券方式は筆者の個人的な案(というか思い付き)に過ぎません。ただ、今後も並行在来線が増えていくことになりますので、そのときに青春18きっぷの制度やルールをどうするのかを考えておく必要はあると思います。
現状のルールのままにしておくと、青春18きっぷで乗れない区間が増えてしまい、単純に利便性が低下してしまいます。さらに、青春18きっぷで乗れない区間が増えてくることは、「JR全線がフリーエリア」という青春18きっぷの「わかりやすさ」にも影響します。「飛び地」になってしまったJR線に乗車するための通過利用の特例など、なるべく青春18きっぷの利便性を失わないようなルールが整備されてはいますが、これも、特例で利用できる区間が増えてくると、非常にわかりにくいきっぷになってしまいます。
直近では、2024年3月に北陸新幹線の金沢~敦賀間が延伸開業し、北陸地方では青春18きっぷで乗車できるのが、いわゆる枝線(越美北線、七尾線、城端線、氷見線)のみとなってしまいました。これらの「飛び地」となる路線に乗車するための通過利用の特例は設けられましたが、鉄道ファンならともかく、一般人には非常にわかりづらい制度です。
青春18きっぷが今後も存続するためには、何らかの制度やルールの変更が必要になるタイミングに来ているように感じます。
以上、「青春18きっぷの三セク問題を考える ~第三セクター路線に青春18きっぷで乗れるようにするには?~」でした。現実的には、この記事で書いた以上の問題があると思われますが、わかりやすくて便利な青春18きっぷの存続のために、JR各社と第三セクター各社には頭をひねってほしいところです。
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