JR西日本は、2023年4月から、在来線特急料金を見直すと発表しました。B特急料金をA特急料金に統一(値上げ)するほか、山陽新幹線 岡山~新下関間での在来線特急列車の乗り継ぎ割引を廃止、一部の特定特急料金の見直し等を実施します。事実上の特急料金値上げとなります。
JR西日本、2023年4月から在来線特急料金を値上げへ
JR西日本は、2023年4月から、在来線特急料金を一部見直すと発表しました。具体的な見直し内容は以下のとおりです。(一部、JR四国にかかわる内容も含みます)
- B特急料金をA特急料金に統一
- 対象区間: 七尾線、山陰線(京都~浜坂間)、舞鶴線、福知山線、播但線、JR京都線、JR神戸線、大阪環状線、阪和線、関西空港線、きのくに線(和歌山~新宮間)
- 特定特急料金(おトクな特急料金)の見直し
- 対象区間: 津幡~和倉温泉間(51キロ以上)、鳥取~出雲市間・米子~益田間の自由席特急料金、岡山~児島間の自由席特急料金(JR四国にまたがる場合を含む、50キロまで)、博多~博多南間の特急料金
- 山陽新幹線 岡山~新下関間の新幹線停車駅での在来線特急列車(JR四国の特急列車も含む)との乗り継ぎ割引を廃止
- 在来線特急列車とサンライズ瀬戸との乗り継ぎ割引の廃止
詳しくは、JR西日本とJR四国のニュースリリースをご確認ください。
- 在来線特急料金の一部見直しについて(JR西日本ニュースリリース 2022年9月2日 PDF)
- 乗継割引の廃止及びJR西日本に跨る場合のおトクな特急料金の廃止について(JR四国ニュースリリース 2022年9月2日 PDF)
以下で、それぞれの見直し内容について、詳しく紹介します。
B特急料金をA特急料金に統一
最も大きな見直しが、関西圏を中心に設定されている割安なB特急料金を、A特急料金に統一する点です。割安なB特急料金区間が事実上なくなり、A特急料金に統一されますので、値上げとなります。
現行の特急料金(B特急料金)と、改定後の特急料金(A特急料金)は以下のようになります。いずれも指定席特急料金(通常期)で、自由席特急料金は記載の金額から530円引きとなります。
営業キロ | 現行 | 改定 | 値上げ率 |
---|---|---|---|
~50km | ¥1,190 | ¥1,290 | 8.40% |
~100km | ¥1,520 | ¥1,730 | 13.82% |
~150km | ¥1,950 | ¥2,390 | 22.56% |
~200km | ¥2,290 | ¥2,730 | 19.21% |
~300km | ¥2,510 | ¥2,950 | 17.53% |
~400km | ¥2,730 | ¥3,170 | 16.12% |
401km~ | ¥3,060 | ¥3,490 | 14.05% |
対象路線と対象区間は以下の図の「JR西日本エリア」と記載のある区間です。
七尾線を除いて、大阪近郊の路線・線区が対象となります。
値上げ率は距離区分によって異なりますが、おおむね15~20%前後となります。
「B特急料金をA特急料金に統一」という記載がわかりにくいのですが、ニュースリリースを素直に読むと、JR西日本からはB特急料金がなくなり、全てA特急料金に統一されるということだと思われます。
単純に特急料金を値上げしてしまうと、高速バスなどとの競争上、不利になってしまうはずですが、そこは割引きっぷや、JR西日本のネット会員やカード会員向けの「J-WESTチケットレス」などで、割引料金を設定して対応するのでしょう。
特定特急料金(おトクな特急料金)の一部見直し
特定の区間で設定している、通常よりもおトクな特急料金(特定特急料金)についても、今回、見直しが実施されます。基本的に、値上げとなります。
適用区間 | 種別 | 現行 | 改定 | 値上げ率 |
---|---|---|---|---|
津幡~和倉温泉間 51km以上 | 指定席特急料金 | ¥1,190 | ¥1,290 | 8.40% |
自由席特急料金 | ¥660 | ¥760 | 15.15% | |
鳥取~出雲市間 米子~益田間 |
自由席特急料金 101~150km |
¥1,320 | ¥1,560 | 18.18% |
自由席特急料金 151km~ |
¥1,320 | ¥1,800 | 36.36% | |
岡山~児島間 同区間とJR四国にまたがる区間 |
自由席特急料金 50kmまで |
¥560 | ¥760 | 35.71% |
博多~博多南間 | 特急料金 | ¥100 | ¥130 | 30.00% |
津幡~和倉温泉間はB特急料金→A特急料金相当への値上げ(距離区分は一つ下なので割安のまま)、岡山~児島間もA特急料金への統一のためと思われます。
鳥取~出雲市間と米子~益田間の自由席特急料金は、かなりの値上げとなります。特に、151km以上の区間では、1,320円から1,800円へと36%もの値上げになります。体感的にもかなりの値上げになりますので、利用に影響が出る恐れもありそうです。
山陽新幹線 岡山~新下関間の新幹線停車駅での乗り継ぎ割引の廃止
山陽新幹線の岡山~新下関間の新幹線停車駅で、新幹線と在来線特急列車を乗り継ぐ場合の乗り継ぎ割引が廃止となります。
乗り継ぎ割引とは、新幹線と在来線特急列車を乗り継ぐ場合に、在来線特急列車の特急料金が半額になる制度です。新幹線と在来線特急列車のきっぷを同時に購入する場合に限って適用されます。全ての場合に適用されるわけではなく、適用される駅や列車が決められています。
今回、山陽新幹線と在来線特急列車の乗り継ぎ割引が廃止される駅と対象列車は、以下のとおりです。
- 岡山駅
- やくも(米子・出雲市方面)
- スーパーいなば(鳥取方面)
- サンライズ出雲・瀬戸
- しおかぜ(松山方面)
- 南風(高知方面)
- 新山口駅
- スーパーおき(益田・出雲市方面)
また、坂出駅、高松駅でのJR四国の特急列車との乗り継ぎ割引も廃止されます。これは、岡山~坂出・高松間で快速マリンライナーなどを利用して移動する場合にも適用される乗り継ぎ割引の特例です。
- 坂出駅
- いしづち(高松・松山方面)
- しまんと(高松・高知方面)
- 高松駅
- うずしお(徳島方面)
現実的に値上げになりそうなのは、岡山駅でのJR四国の特急列車との乗り継ぎ、「やくも」「スーパーいなば」との乗り継ぎ、新山口駅での「スーパーおき」との乗り継ぎでしょうか。
特に、岡山駅は、四国方面への特急列車が着発するターミナル駅ですので、影響が大きそうです。関西~四国の移動時に、乗り継ぎ割引が効かなくなることによって実質的に値上げとなり、高速バス等との競争対抗上、不利になる可能性もありそうです。
在来線特急列車とサンライズ瀬戸との乗り継ぎ割引の廃止
JR四国の在来線特急列車とサンライズ瀬戸を、坂出駅か高松駅で乗り継ぐ場合に、JR四国の特急列車の特急料金が半額になる乗り継ぎ割引がありましたが、これが廃止されます。
関東・関西方面からサンライズ瀬戸で四国入りし、坂出駅で高知方面・松山方面への特急列車に乗り継いだり、高松駅で徳島方面への特急列車に乗り継いだりするような使い方の場合、実質的に値上げとなります。
正規料金値上げと乗り継ぎ割引廃止でオンライン&チケットレス化を推進か
今回のJR西日本の特急料金の見直しですが、コロナ禍で単純に経営が厳しいという事情はありつつも、チケットレス化を推進したいという狙いもあるのではないかと思います。
今回、B特急料金を実質的に値上げするわけですが、特に京阪神地区から各方面への特急料金を単純に値上げしただけで、その分、増収になるかといえば、そうはならないでしょう。高速バスなど、他の交通機関とも競合する区間が多いためです。そのため、正規の特急料金は値上げしつつも、「e5489」専用のチケットレス特急券などの割引率を高めて、競争力を維持すると思われます。正規料金とチケットレスの割引料金との差が大きくなれば、「e5489」で購入&チケットレスで乗車という方向へ誘導することもできるでしょう。
一方、乗り継ぎ割引の廃止については、他社(特にJR四国)の特急列車との乗り継ぎ割引を廃止したいという思惑があると思われます。
さらに、オンライン+チケットレス化を進めるにあたって、料金制度の実質的な簡素化も狙っているのではないかと邪推します。すでに、JR各社の新幹線では、EX予約や新幹線eチケットのように、乗車券+特急券が一体となったチケットレスが一般的になっています。一つの列車で1枚のきっぷという、非常にわかりやすい仕組みです。乗り継ぎ割引を廃止して、その代わりに、オンラインで割引されたチケットレスのきっぷを売ることを狙っているのではないでしょうか。
JRの料金制度は、乗客にとって不利にならないようにと、国鉄時代の制度が引き継がれています。一方で、この複雑怪奇な料金制度が、オンライン化やチケットレス化の障害にもなっています。最たる例は、交通系ICカードで会社間をまたぐ移動ができないことでしょう。
料金制度を根本から変更するのは難しくても、正規料金の値上げとチケットレスの割引率向上で、実質的に料金体系をシンプル化して、オンライン化・チケットレス化を推進したいという狙いがありそうに思います。
JR各社の運賃・料金、続々と値上げへ
JR各社の運賃や料金は、ここ数年で続々と値上げされています。ついこの前も、JR四国が2023年春から運賃を値上げすると発表したばかりです。
また、ここ数年でも、以下のように運賃や料金の値上げが実施されています。
- JR北海道の普通旅客運賃の値上げ(2019年10月)
- JR東日本の新幹線・特急列車のグリーン料金値上げ(2022年3月)
- JR九州の特急料金の値上げ(2022年4月)
2020年からのコロナ禍が落ち着いても、テレワークの定着や、オンライン会議等の普及による出張の削減などで、鉄道の需要は元には戻らないと想定されています。JR各社は、どの程度まで需要が戻るかを見極めつつ、その需要にあった運賃や料金の水準を模索しているのでしょう。
また、今後も、以下のような値上げが予定されています。
- JR東日本(電車特定区間)・JR西日本(電車特定区間・大阪環状線内)で鉄道駅バリアフリー料金制度を適用するための値上げ(2023年春)
- 時間帯別運賃等による運賃制度の改正(時期未定)
運賃や料金の値上げに加えて、コスト削減も進めています。これから数年間で、JR各社のローカル線がかなり廃止される可能性があります。コスト削減の方法は、もちろんローカル線の廃止だけではありませんが、コストの大部分を占める固定費を抜本的に削減するには、赤字ローカル線を廃止するのが一番です。
コロナ後に落ち着く需要の水準にあわせられるように、収入増(運賃・料金値上げ)とコスト削減(ローカル線の廃止等)を進めていくものと思われます。
以上、「JR西日本が2023年春に在来線特急料金を値上げ! B特急料金・乗り継ぎ割引を一部廃止、特定特急料金も見直しへ!」でした。割引きっぷ等も含めて、実質的にどの程度の値上げになるのか、注目していきたいと思います。
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