JR四国は、2023年春に、普通旅客運賃、定期旅客運賃、一部の特急料金を値上げします。初乗り運賃は170円から190円へと20円アップ。全体では普通運賃が平均12.51%、通勤定期が28.14%、通学定期が22.43%の値上げとなります。また、短距離の特急料金も値上げとなります。
2023年春、JR四国が27年ぶりの値上げを実施へ
JR四国は、2022年8月26日、普通旅客運賃、定期旅客運賃、一部の特急料金の上限変更認可申請を国土交通省へ行ったことを発表しました。これが認可されれば、2023年春から、運賃と一部の特急料金が値上げとなります。
運賃・特急料金の値上げの概要は、以下のとおりです。
- 普通旅客運賃
- 平均12.51%の値上げ、初乗りは170円→190円に20円アップ
- 200kmまでの運賃を値上げ、201km以上の運賃は据え置き
- 特定運賃については廃止する予定
- 定期旅客運賃
- 普通旅客運賃の値上げに加えて、割引率を下げる改定を実施
- 平均で通勤定期が28.14%、通学定期が22.43%の値上げ
- 特急料金
- 自由席特急料金は、25kmまでを330円→450円に、50kmまでを530円→760円に値上げ
- 50kmまでの指定席特定特急料金を廃止し、A特急料金に統一
- 51km以上の特急料金は据え置き
運賃、特急料金の値上げにより、JR四国は約18億円の増収を見込んでいます。
詳しい内容については、JR四国のニュースリリースをご覧ください。
運賃・特急料金ともに短距離を値上げ、長距離は据え置きへ
今回のJR四国の値上げ内容を見てみると、運賃、特急料金ともに短距離を中心に値上げを実施し、長距離については据え置きとなっています。
具体的には、201km以上の運賃は据え置きとなっていますし、特急料金は51km以上は据え置きです。定期券の割引率の見直しは全ての距離区分にかかわりますが、定期券の性格上、ほぼ短距離の利用に限られるため、やはり短距離の値上げが中心となっています。
また、運賃改定の内容を詳しく見ていくと、運賃の算出方法そのものの変更もなされています。
- 100kmまでの普通旅客運賃
- 改定前: 対キロ制
- 改定後: 対キロ区間制を導入
現行では、JR他社と同じく、キロ当たりに定められた賃率に営業キロ数を乗じて運賃を算出する「対キロ制」が採用されています。対キロ制では、基本的に乗車した距離に対して、運賃の増加分は比例します。JR本州3社では、乗車する距離によって3段階の賃率を設定することで、遠距離ほど賃率が低くなる遠距離逓減制を実現しています。
一方、今回の改定で、JR四国は、100kmまでの普通運賃に「対キロ区間制」を導入します。「対キロ区間制」は、主に私鉄や地下鉄などで採用されている運賃の算出方法で、1~3kmまでは〇〇円、4~6kmは〇〇円、のように、ある区間ごとに運賃を定める方式です。
JR四国が対キロ区間制を採用する理由として、ニュースリリースには、
100km までの運賃について新たに賃率に拠らない「対キロ区間制運賃」を導入し、他交通機関を考慮した運賃水準で設定しています。
と書かれています。
鉄道以外の他の交通機関、主には路線バスや高速バスだと思われますが、これらの交通機関との競争対抗上、対キロ区間制運賃を導入するということです。競争が激しい区間で、他の交通機関との運賃差が大きくならないように運賃を設定したいということでしょう。
また、長距離の運賃、特急料金を据え置いた理由も、他の交通機関を意識したものだと思われます。JR四国の特急列車の運賃・料金は、現行でさえ、無割引では高速バスに大きく水をあけられています。高速バスに対抗できるようにするために、「Sきっぷ」などの特急列車の割引きっぷを販売しています。
長距離の運賃、特急料金を値上げしたところで、高速バスに対抗できる「Sきっぷ」などの割引きっぷの価格を上げられないのであれば、実質的には値上げの意味はないということでしょう。
フリーきっぷ・割引きっぷも改定分相当を値上げへ!
旅行者・乗り鉄として気になるのは、JR四国が発売しているフリーきっぷや割引きっぷの価格がどうなるかでしょう。
JR四国のニュースリリースには、以下のように記載されています。
特別企画乗車券(トクトクきっぷ)については、このたびの運賃改定が認可された場合、改定分相当を引き上げさせていただくことを基本に、きっぷごとの固有の事情も勘案して発売額を決定し、届出を行う予定です。
「改定分相当を引き上げ」が基本ということですので、おそらくほとんどのフリーきっぷ・割引きっぷの価格が引き上げられるものと思われます。
四国外から四国へ鉄道旅行に行く場合、「四国フリーきっぷ」に代表される四国全線で特急乗り放題のフリーきっぷを利用される方が多いのではないかと思います。このようなフリーきっぷも、基本的には平均の改定率である約12.5%の引き上げがなされる可能性が高そうです。
「四国フリーきっぷ」(3日間、特急列車を含めてJR四国乗り放題)は、現在、大人16,440円ですが、12.5%引き上げられるとすると、18,500円程度ということになりそうです。
一方で、「きっぷごとの固有の事情も勘案して」という記載もあります。特急列車の割引きっぷなど、高速バスとの対抗上、戦略的な値付けが必要な割引きっぷのことを示していると思われます。今回の改訂では、長距離の値上げはほとんどないため、「Sきっぷ」などの割引きっぷの中には、価格が据え置きになるものもありそうです。
JR各社は次々と値上げへ! ローカル線の廃止とあわせてコロナ後の利益確保が急務!
今回のJR四国の運賃・特急料金の値上げ以前にも、JR各社は続々と運賃や特急料金の値上げを実施しています。ここ数年に限っても、消費税増税に伴う値上げ以外で、以下のような値上げが実施されています。
- JR北海道の普通旅客運賃の値上げ(2019年10月)
- JR東日本の新幹線・特急列車のグリーン料金値上げ(2022年3月)
- JR九州の特急料金の値上げ(2022年4月)
また、今後も、値上げが予定されています。
- JR東日本(電車特定区間)・JR西日本(電車特定区間・大阪環状線内)で鉄道駅バリアフリー料金制度を適用するための値上げ(2023年春)
- 時間帯別運賃等による運賃制度の改正(時期未定)
一方で、JR各社は、赤字ローカル線の廃止に向けて、沿線自治体との協議に入る準備を進めています。
もともと、人口減少・少子高齢化に伴って、徐々に鉄道事業の収益が減っていくと見込まれていましたが、2020年からのコロナ禍が追い打ちをかけました。テレワークや出張旅費削減などにより、コロナ禍が終わっても需要が完全に戻ることはないとして、JR各社はコスト削減に動いています。
2022年夏でコロナ禍も3年目。世界各国が日常を取り戻している中、日本だけがコロナ禍からの回復が遅れています。その状況はJR各社の数字にも現れています。JR西日本が毎月発表している「収入概況」では、2022年8月1日~21日の収入は2019年比67.1%、JR各社のお盆休みの新幹線・特急列車の利用状況は、平年比60%前後でした。
ちょうど第7波の真っ只中だったという事情はあるにせよ、JR各社としては、この程度の利用状況でも、最低限赤字にならないレベルにまでコスト削減を進めることが急務になっていると思われます。
7月には、国交省の「鉄道事業者と地域の協働による地域モビリティの刷新に関する検討会」の提言が発表されたばかりです。
これによれば、輸送密度2,000人/日以下の路線を対象に、JR各社と沿線自治体が、今後の路線の維持に向けて、協議を進めるようにと提言されています。場合によっては国も関与するとまでされていますので、赤字ローカル線の存廃問題が一気に進展しそうです。
需要にあった運賃・料金への見直し(値上げ)と、コスト削減の本丸である赤字ローカル線の廃止。これらを両輪として、今後のJR各社の経営の立て直しが進められそうです。
以上、「JR四国が2023年春に運賃を値上げへ! 初乗りは20円アップの190円に、短距離の自由席特急料金も値上げ!」でした。利用者としては値上げはつらいですが、サービス維持のためにはやむを得ない面もありますね……。
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