山形県南部の米沢駅と、新潟県北部の坂町(さかまち)駅を結ぶローカル線、米坂(よねさか)線。田園風景と川の風景が続く素朴なローカル線です。絶景が見られるわけではないですが、ローカル線でのんびり鉄道の旅を楽しみたい方にはおすすめできる路線です。
今回、夏の青春18きっぷを利用して、米坂線に乗車してきましたので、乗車記をお届けします。
※2020.07.27更新
米坂線とは?
米坂線は、山形県の米沢駅と、新潟県の坂町駅を結ぶJR東日本の路線です。全線で90.7km、駅の数は20で、全線が非電化単線となっています。
米沢駅は奥羽本線(山形線)との接続駅で、山形新幹線つばさ号も停車します。一方、坂町駅は、日本海側を南北に走る羽越本線との接続駅で、特急いなほ号が停車します。米坂線は、東北南部の内陸部と日本海側の主要幹線を結ぶ路線なのです。
米坂線全線を走る列車は1日5往復のみ!
米坂線の全線を通して走る列車は、1日に5往復しかありません。午前中と夕方以降に集中しているため、午後の早い時間帯は列車の運転がなく、4時間程度も列車が来ない駅もあるほどです。
また、JR東日本が公開している「路線別ご利用状況」によると、2019年度の平均通過人員は、
- 全線(米沢~坂町): 373人/日
- 山形県側(米沢~小国): 487人/日
- 新潟県側(小国~坂町): 169人/日
(出典)路線別ご利用状況:JR東日本
となっています。
JR北海道の路線の見直しでは、200人/日以下の路線が廃止・バス転換の対象になっていますが、米坂線の小国~坂町間は、同レベルの閑散線区ということになります。
JR発足時(30年前)と比べると、全線での利用客が3分の1以下にまで減っています。今後が心配されますが、乗客が少ない路線ですので、ゆっくりと旅を楽しむことはできます。
かつては新潟~山形・仙台を結ぶ重要路線
東北新幹線や上越新幹線が開業する前は、新潟と山形・仙台を結ぶ最短ルートは、米坂線経由でした。当時は急行「あさひ」が新潟~山形・仙台を直通していました。
現在、新潟~仙台の鉄道での最速ルートは、上越新幹線と東北新幹線を大宮駅で乗り継ぐルートです。
- 新潟→仙台(白新線・羽越本線・米坂線・奥羽本線・仙山線経由): 249.8km(約5時間半)
- 新潟→仙台(上越新幹線・東北新幹線経由): 625.1km(3時間前後)
新幹線では、距離が2.5倍あるのに、所要時間は半分程度。いかに新幹線が早いかがわかりますね。
米坂線では、快速「べにばな」が、新潟~米沢を1日1往復走っています。それならば、新潟~山形の在来線経由の需要もありそうなものですが、残念ながら、米沢駅では米坂線と奥羽本線の線路はつながっていません。山形新幹線開業・延伸時に、奥羽本線の福島~新庄は標準軌という新幹線の幅の線路に改修されたためです。
ということで、米坂線は、新潟県内、山形県内のローカル輸送が中心の路線になっています。
米坂線乗車記
少し前置きが長くなりましたが、ここから米坂線の乗車レポートをお届けします。
乗車したのは、2018年8月のお盆休み。平日でしたが、会社員は休みの方が多い時期です。
米沢駅のホームの端から出発
この日は、自宅から東北本線を乗り継いで福島へ。福島から高畠までは山形新幹線つばさ号で「ワープ」し、高畠ワイナリーを訪れていました。その後、米沢行きの普通列車で、米沢に15時11分に到着。
米坂線のホームは、駅舎から一番近い奥羽本線の1番線(山形方面行き)ホームの端にあります。
上の写真の右側が4番線ホーム、その奥の切り欠き部分に5番線ホームがあります。写真の左側の線路が1番線(奥羽本線下り線)です。
東京方面から山形新幹線で到着したら、ホームを後ろの方に歩いていけば、米坂線のホームがあります。跨線橋を渡る必要がないのはありがたいですね。
坂町行きの列車は、すでに5番線ホームに入っていました。車両は「キハE120形」という形式で、JR東日本の気動車(ディーゼルカー)です。この形式の車両は8両しかなく、米坂線を中心とした新潟地区で運用されています。
水郡線や久留里線、八戸線で利用されている「キハE130形」とほとんど同じですが、キハE130形が3扉なのに対して、キハE120形は2扉です。
2020年3月に、米坂線のキハE120系は只見線へと転属し、現在はキハ110系や、新しい電気式気動車GV-E400系で運転されています。
車内は、JR東日本の気動車によくある、4人がけと2人がけのシートが並ぶ構造です。
発車までまだ50分もあるのに、車内に入れるようになっていました。この日は暑かったので、早々に乗り込んで二人がけの座席を確保し、冷房の効いた車内で発車時間を待ちました。
ホームの横の留置線には、キハE120形とキハ110形の2両編成の列車が停車していました。キハ110形は、JR東日本のローカル線でよく見かける車両ですが、米坂線ではキハE120形と共通で運用されているようです。
置賜地方の田園風景を進む
16時16分、米沢駅を発車。2両編成の車内は、2人がけのシートに一人、4人がけのボックスに1~2人程度のほどよい乗車率です。もっとがらがらかと思っていましたが、お盆休みで帰省客が利用しているようですし、1本前の坂町行きの列車が4時間前でしたので、比較的乗客が多い列車なのかもしれません。
米沢駅から南側に向けて発車しますが、すぐに奥羽本線の線路と分かれて、進路を西へ。すぐに川を渡りますが、米沢市の南端、会津地方との間にある吾妻山に源流を発する最上川の上流のようです。
南米沢、西米沢と、米沢市内の駅に止まり、今度は進路を北へ。米沢の市街地を半周ぐるっとまわる形で進みます。
市街地を抜けると、次第に田園風景が目立つようになります。このあたりは、米沢盆地(置賜盆地)で、比較的平坦なことから、稲作が盛んなようです。盆地を囲む山々まで、ずっと田んぼが広がります。
米沢から30分ほどで、山形鉄道フラワー長井線との乗り換え駅、今泉に到着です。フラワー長井線は、奥羽本線の赤湯駅と、米沢盆地の北部に位置する荒砥(あらと)駅を結ぶ第三セクター路線です。もともとは、国鉄→JR東日本の長井線でした。
今泉を出ると、今度は西へ向かいますが、車窓は相変わらず田園風景が続きます。遠くの山の向こうには入道雲が発達していました。あちこちで雷雨があった日ですが、幸い、米沢盆地のほうまで雷雲はやってこなかったようで、ずっと晴れていました。
羽前椿駅に停車。ここで数人の登山客が乗車してきました。飯豊山(いいでさん)の登山を終えての帰路でしょうか。
羽前椿駅は、米沢からの区間列車が1日3本運転されている主要駅の一つで、数少ない有人駅でもあります。この羽前椿駅あたりが、米沢盆地の西端にあたります。
小国街道に沿って峠越えへ
羽前椿の出発は16時56分。米沢から40分ほどです。
羽前椿を出ると、新潟県と山形県の県境に位置する朝日山地と、新潟・山形・福島の県境にある飯豊(いいで)山地の間に入っていきます。
車窓は、先ほどまでの盆地の田園風景から一変し、両側の山々が迫ってきて、山々の合間を縫うように進んでいきます。途中、ところどころで小さな川を渡りました。
米坂線は、国道113号線にほぼ沿って進んでいきます。この区間は、国道113号線が開通するまでは、「越後米沢街道・十三峠」と呼ばれ、置賜地方と新潟の下越地方を結ぶ物流の重要な街道だったそうです。
国土交通省東北地方整備局のサイトを見ると、かつての「越後米沢街道」は、現在の国道113号線や米坂線よりも少し南側を通っていたようです。
「十三峠」と呼ばれるのは、かつての街道沿いに13の峠があったことに由来するものだそうですが、それだけ険しい道のりだったことがうかがえます。
ちなみに、米坂線の全線開業が昭和11年、現在の国道113号線に相当する道路の開通が明治17年で、米坂線のほうが新しいのですが、車窓から見る限りは、国道のほうが線形が良く、走行しているクルマはこちらの列車をどんどんと追い抜いていきます。国道113号線は、あとで開業したバイパス区間が多いみたいですね。
山地に囲まれた小さな盆地の町、小国駅で長時間停車
山間部を抜け、少し視界が開けてきて、17時33分に小国駅に到着。この駅で20分弱の停車です。
小国駅は、新潟県との県境に位置する山形県西置賜郡小国町の中心駅です。
小国町は、人口8千人弱の小さな町で、豪雪地帯でもあります。冬季には積雪が2メートルを超えることもあるそうです。地図で地形を見ると、飯豊山地と朝日山地の間にぽっかりと開いた小さな盆地のようなところですので、冬の季節風の影響を大きく受けそうです。
小国駅のホームは、駅舎側の下り線(1番線)に加えて、島式ホームの2・3番線があり、跨線橋でつながっています。列車が停まっているのが1番線、手前側が2番線です。
米坂線では数少ない有人駅もありますが、1日の乗降客数は109人(2017年実績)という静かな駅です。
日没にはまだ早いのですが、山に囲まれた地形のせいか、小国駅はすでに夕暮れの雰囲気。時間の進み方がここだけ遅いのではないかというほど、のどかでした。
17時50分頃に米沢行きの列車がやってきて、先に発車。その後、こちらの列車も発車しました。
列車の行き違いで20分も停車するというのんびりさも、ローカル線の魅力のひとつかもしれません。
荒川の流れに沿って西進
小国駅を出ると、再び山間部に入ります。
先ほどまでと少し違うのは、車窓に比較的大きな川が見えること。この川は「荒川(あらかわ)」という川で、朝日山地の大朝日岳に源流を発する一級河川です。一級河川の中では最も水質の良い河川の一つだそうです。
もちろん、埼玉~東京を流れる荒川とは別の川です。日本には、一級河川から小さな河川まで、「荒川」という川がたくさんあるようです。「荒れる川」が由来でしょうから、洪水をよく起こす川にこの名前が付けられたのでしょうね。
さて、小国駅の次の駅は「越後金丸(えちごかなまる)」駅。どうやら新潟県に入ったようです。日本全国に旧国名を冠した駅名は多く残っていて、鉄道で旅をしていると、駅名で県境を越えたことがわかるのですよね。
山間の風景から、次第に田んぼが目立つようになりました。すでに越後平野の北端部に入ってきたようです。荒川の川幅もいつの間にか広くなり、下流域に入ってきたことをうかがわせます。
ほどなくして、18時29分、定刻通りに終点の坂町駅に到着しました。米沢駅から2時間ちょっとの旅でした。
長いホームに広い構内の坂町駅
米沢からの列車は、坂町駅の1番線ホームに到着しました。1番線は架線がないため、米坂線専用のホームのようです。
坂町駅のホームはとても長く、たった2両の米坂線の列車は、ホームの真ん中にちょこんと停まっています。
広い構内も、かつての繁栄を物語っているようです。過去には、坂町機関区があり、蒸気機関車の基地にもなっていたようです。
ちょうど夕暮れの時間。下りホームの古い屋根の向こうに夕陽が沈んていく光景が印象的でした。
以上、「【米坂線乗車記】小国街道沿いに田園と川の車窓が続く素朴なローカル線!」をお届けしました。ものすごい絶景があるわけでもないですし、沿線にメジャーな観光地があるわけでもありません。そんな路線だからこその素朴さというか、のんびりとした雰囲気が米坂線の魅力でしょう。そんな旅をしたい方には、ぜひおすすめの路線です。
関連記事
当ブログで紹介している風光明媚な路線や観光列車、SL列車などの乗車記の目次ページです。
コメント