2011年7月の豪雨被害で不通となっている只見線の会津川口~只見間ですが、JR東日本が、第一種鉄道事業廃止と第二種鉄道事業許可の申請を実施しました。2022年中の運転再開とアナウンスされていますが、2022年夏頃の運転再開が濃厚となってきました。
JR東日本、只見線(会津川口~只見間)の第一種鉄道事業廃止・第二種鉄道事業許可を申請
JR東日本は、2011年7月の豪雨被害以降、不通となっている只見線の会津川口~只見間の第一種鉄道事業廃止の届け出と、第二種鉄道事業許可の申請を実施したと発表しました。
同日、福島県が第三種鉄道事業許可の申請を行ったことも発表されました。
只見線の会津川口~只見間は、2022年中の運転再開を目指して復旧工事が進められています。当初は、2021年中の予定でしたが、第6只見川橋梁の工法を変更したことから、運転再開時期が2022年中へと変更になっています。
通常、鉄道事業を廃止する場合には、廃止日の1年以上前に廃止の届け出をすることになっています。そのルールに則ると、只見線の会津川口~只見間の運転再開は、早くとも2022年7月ということになりそうです。というよりも、おそらく、来年夏の運転再開が見通せる状況になったため、このタイミングでの届け出・申請ということになったのかもしれません。
只見線の会津川口~只見間は「上下分離方式」へ移行
今回のJR東日本と福島県の届出・申請は、只見線の会津川口~只見間を「上下分離方式」へ移行するための手続きとなります。
現在、只見線は、会津若松~小出間の全線がJR東日本の路線となっています。
ところが、2011年7月の豪雨により、只見線の会津川口~只見間で複数の橋梁が流されるなど、甚大な被害が出ました。この区間の復旧にあたって、JR東日本は、当初、鉄道を廃止してバスへの転換を提案していましたが、以下の条件で、2017年6月に鉄道での復旧に合意しました。
- 被災区間の復旧費用を、福島県が3分の2、JR東日本が3分の1を負担し、JR東日本が鉄道として復旧させる
- JR東日本が同区間の施設・土地を福島県に無償で譲渡する
- 福島県が第三種鉄道事業者として設備を保有し、その設備を借り受ける形で、JR東日本が第二種鉄道事業者として列車を運行する(「上下分離方式」による運行)
- JR東日本が福島県に支払う線路使用料は、同区間の運行経費が赤字にならない程度に減免される
今回の届け出・申請は、2017年6月の合意に基づき、
- JR東日本は、これまで設備を自ら保有して鉄道事業を実施する「第一種鉄道事業者」であったが、その事業についての廃止を届け出る
- JR東日本は、(福島県から)設備を借り受けて鉄道事業を実施する「第二種鉄道事業者」となるため、その許可を申請する
- 福島県は、(JR東日本から無償譲渡される)設備を保有して、第二種鉄道事業者(=JR東日本)に貸し付ける
「第三種鉄道事業者」となる許可を申請する
ということです。
これにより、いわゆる「上下分離方式」に移行するということになります。
ただし、「上下分離方式」に移行するのは、2011年に被災して復旧工事が行われている区間のみです。只見線のそれ以外の区間は、これまでどおり、JR東日本が設備も保有する「第一種鉄道事業者」として運行します。
まとめると、以下のようになります。
区間 | JR東日本 | 福島県 |
---|---|---|
会津若松~会津川口 | 第一種鉄道事業者 | - |
会津川口~只見 | 第二種鉄道事業者 | 第三種鉄道事業者 |
只見~小出 | 第一種鉄道事業者 | - |
ちょっとややこしいですが、鉄道を運行するのは全区間でJR東日本となりますので、利用者からすれば、あまり気にしなくて良いことになります。
JR東日本に有利な条件、鉄道での復旧を優先した福島県
前述の、復旧にあたっての合意ですが、JR東日本に極めて有利なものとなっています。
JR東日本は、鉄道施設の復旧費用の3分の1(約27億円)を負担しますが、運行再開以降、上下分離方式に移行した区間に限れば、線路使用料は実質ゼロでしょうから、あとは列車の運行にかかわるコストのみとなります。
一方、福島県(沿線の自治体含む)は、復旧費用の3分の2(約54億円)を負担するうえに、上下分離方式に移行する区間の鉄道設備の維持管理費として、年間2.1億円を見込んでいます。
JR東日本が提案していたバス転換案と、結果的に決まった上下分離方式による復旧を比べてみます。
鉄道による復旧 | バス転換 (JR東日本提案) |
|
---|---|---|
運行本数 | 3往復 | 6.5往復 |
駅/停留所 | 8駅 | 11+α |
所要時間 | 44分 | 50分 |
工事費用 | 福島県 54億円 JR東日本 27億円 |
JR東日本が 全額負担 |
福島県負担 | 年2.1億円 | なし |
只見線は全線に渡って運転本数が少ないローカル線ですが、今回、上下分離方式に移行する会津川口~只見間は、もっとも列車の本数が少ない区間です。鉄道での復旧にあたっては、被災前の1日3往復に戻すことにしています。
ところが、JR東日本が提案していたバス転換案では、同区間のバスの本数は1日6.5往復。これは、現在、JR東日本が運行している代行バスの本数(下り6本、上り7本)と同じです。地域の足として代行バスを利用している人にとっては、鉄道が復旧すると運転本数が半減することになるのです。
さらに、バス転換であれば、JR東日本が主体として運行することになるため、運行経費はすべてJR東日本持ちで、福島県や自治体の負担はありません。工事費用に関しても同様です。
当時、JR東日本がバス転換について提案していた資料を見ると、本気でバス転換を考えていたことがよくわかります。
福島県や沿線の自治体は、かなり譲歩して鉄道での復旧を選んだということが言えそうです。
福島県は鉄道のネットワークとしての維持を優先?
福島県は、なぜここまで譲歩して、そして、多額の負担をしてまで、只見線の鉄路での復旧にこだわったのでしょうか?
鉄道を核とした地域振興を優先
ここまで福島県や沿線自治体が負担をしてまで、只見線の被災区間を鉄道で復旧させようとしたのは、鉄道を核とした地域振興策の展開が可能になる点を重視したと言われています。
只見線は、上越新幹線経由で首都圏からのアクセスが良い中越地方と、豊富な観光資源を持つ会津地方を結ぶ路線です。かつては、浦佐・小出~会津若松間に急行列車(急行「奥只見」)も運転されていました。
ローカル線とはいえ、小出駅では上越線と、会津若松駅では磐越西線や会津鉄道と接続しており、鉄道ネットワークの一端をなしています。
地域の足としてであれば、JR東日本が提案していたバス転換のほうが、利便性や自治体の負担の面ではるかに魅力的です。福島県や沿線自治体は、只見線を、地域の足としてではなく、観光や産業で地域振興を図るための交通機関として位置づけているということでしょう。
収入500万円の区間に2.1億円の負担
とはいえ、現在の只見線に、中越地方と会津地方を結ぶ役割はありません。被災前でも、前述の会津川口~只見間は1日3往復のみ。筆者は被災前に全線を通して走る列車に何回か乗車しましたが、会津若松・小出近辺では通学輸送があるものの、只見線の中間部はガラガラという状況でした。実際、被災前の2010年度の会津川口~只見間の輸送人員は49人/日と、いつ廃止になってもおかしくない数値です。
さらに、被災前の只見線の営業収益(収入)は、以下のようになっています。
- 只見線全線の運賃収入: 約1.7億円(2010年度)
- 運休区間(只見~会津川口)の運賃収入: 約500万円(2009年度)
福島県や沿線自治体は、500万円(0.05億円)しか収入がない区間に、毎年、2.1億円のコストをかけるわけです。
これでは、さすがに鉄道事業での黒字化は不可能でしょう。
被災して10年、只見線全線復旧の価値を示せるか?
鉄道事業だけでの黒字化が望めなくとも、地域経済への貢献も含めて、総合的にメリットがあればよいわけです。只見線の黒字化が現実的でない状況ですので、地域への経済効果で、毎年2.1億円というコストをかけても鉄道を維持するメリットがあれば良いということです。
とはいえ、こちらもなかなかハードルは高そうです。
もともと、それほど観光資源が豊富な地域ではないですし、会津若松や中越地方に比べて、首都圏から遠いというハンデもあります。
それに、只見線が被災してからすでに10年が経過しています。代行バスがあるとはいえ、鉄道がない状態で10年という長い年月が経ってしまっているため、鉄道がない状況が当たり前になってしまっているでしょう。只見線が全線で運転を再開したとき、鉄道がつながっているという「価値」を、新たに構築しなくてはなりません。
只見線沿線の一級品の車窓を観光資源にできるか?
鉄道での復旧が決まった只見線ですが、ここまで見てきたように、厳しい状況での再スタートとなります。福島県や沿線自治体の負担が重くなれば、今度こそ廃止されてしまう可能性もあります。
それでも、只見線の沿線は、被災した只見川沿いを中心に、鉄道の車窓としては一級品です。会津盆地の田園風景や、山間部の里山風景も含めて、首都圏から比較的近い路線としては、見ごたえのある車窓が続きます。
只見線の車窓については、以下の乗車記もご参照ください。
鉄道で復旧する只見線を活かすには、このような素晴らしい車窓をいかに観光資源にできるかにかかっているでしょう。
沿線の集客力がやや弱いところが気にはなりますが、上越新幹線と接続する観光列車を走らせると良いのではないでしょうか。
現在でも、新潟~只見間や、会津若松~会津川口間には、観光シーズンに臨時列車が運転されることがありますが、できれば、専用の車両を用意して、週末にコンスタントに走らせることができると、集客力も上がるのではないかと思います。
上越新幹線の越後湯沢駅か浦佐駅から、小出駅を経由して、会津若松駅まで、南会津地方の新たな観光ルートを開拓することができるかもしれません。
昨年からのコロナ禍で、JR東日本も大きな赤字を出し、これまでの黒字経営とは状況が変わってきました。福島県や沿線の自治体は、ただ待っているだけでは、1日3往復の普通列車が走るようになるだけです。自ら車両を保有するような勢いで、JR東日本に観光列車の誘致を働きかけて行く必要がありそうです。
以上、「只見線(会津川口~只見間)、JR東日本が第二種鉄道事業許可の申請! 2022年中には11年ぶりの運転再開へ!」でした。全線運転再開のタイミングが、観光キャンペーンを仕掛ける絶好のタイミングですので、福島県や沿線自治体は、そのチャンスを逃さないようにしてほしいところですね。
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