新庄と余目を結ぶ陸羽西線は、並行する「新庄酒田道路」の建設工事に伴って、2022年5月から2年間以上の運休となっています。今回、余目駅から新庄駅へ、各駅に停車する代行バス154便に乗車してきましたので、その様子をお届けします。国道47号線を走る区間では、鉄道よりも最上川の眺めが良いものの、乗客は旅行者ばかりで、地元民の利用が極めて少なかったのが気がかりです。
陸羽西線は「新庄酒田道路」建設に伴うトンネル工事のために2年間の運休中
陸羽西線は、新庄駅と余目駅の43kmを結ぶJR東日本の路線。全区間が非電化、単線のローカル線です。
山形県内に閉じる路線ですが、鉄道ネットワークの点では、新庄駅で山形新幹線「つばさ」に、余目駅では特急「いなほ」に接続しています。山形県の内陸部と日本海側を結ぶ鉄道路線としても重要です。
そんな陸羽西線ですが、2022年5月から2024年度中まで、2年間以上に渡って全線で運休となっています。陸羽西線に並行して建設されている「新庄酒田道路」の「(仮称)高屋トンネル」の工事のためです。高屋トンネルは、陸羽西線のトンネルの直下で交差する計画になっていますが、工事時の列車運行の安全が確保できないということで、工事が終了するまで運休することになったのです。
トンネル工事が行われるのは陸羽西線の古口駅~高屋駅の間だけですが、陸羽西線は全線で運休となり、酒田・余目~新庄間で代行バスによる代替輸送が実施されています。
今回、陸羽西線の代行バスに乗車してきましたので、その様子をお届けします。
陸羽西線 代行バス 余目駅~新庄駅のルート
陸羽西線の代行バスのルートは、以下の地図のようになっています。(細かいところは違っているかもしれませんが、大まかには間違っていないはずです)
余目駅、狩川駅、清川駅、古口駅、新庄駅は鉄道駅の前に代行バスの停留所がありますが、それ以外の駅は、近くの沿線道路に停留所が設けられています。
特に、津谷駅は本来の駅から1kmほど離れたところに代行バスの停留所が設けられています。
陸羽西線 代行バス「154便」乗車記
今回、乗車したのは、余目駅から新庄駅まで各駅に停車する代行バス「154便」です。乗車したのは9月中旬の平日(月曜日)です。
酒田駅から特急「いなほ6号」で余目駅へ
前日、酒田駅前のホテルに宿泊していたので、余目駅まで移動します。余目駅からの代行バスに接続する列車が、この特急「いなほ6号」なのです。本来は、羽越本線の普通列車が、陸羽西線の普通列車に接続するはずなのですが、代行バスでは所要時間が全く異なるので、普通列車が接続しない便もあるのです。
仕方がないので、わずか8分の乗車のために、自由席特急券(520円)を購入しました。乗車券は、余目駅からの代行バス区間も含めて、酒田駅→新庄駅で購入しています。
特急「いなほ6号」は、9時04分に酒田駅を発車。たった8分で余目駅に到着しました。「いなほ6号」は酒田駅が始発ですが、どうやら私と同じことを考えている方がかなりいたらしく、数名が余目駅で下車しました。
JRバス東北が運行する代行バス「154便」に乗車
余目駅前には、JRバス東北と山形交通のバスが並んでいました。JRバス東北のほうには「154便」、山形交通のほうには「156便」と掲示されていました。
「154便」のJRバス東北の車両がバス乗り場へやってきましたので、早速乗り込みます。運転手にきっぷを見せようとすると、「きっぷは降りるときに見せてください」とのことでした。
青いシートが並ぶJRバス東北の車内です。まだ他に誰も乗ってきていませんでしたが、このあと、年配の女性グループや夫婦、一人旅風の方が乗車。余目駅発車時点で15名ほどの乗客となりました。
やけに旅行者の比率が高いなと思いましたが、ちょうど「大人の休日倶楽部パス」の利用期間だったのでした。年配の方が多いのも納得。「大人の休日倶楽部パス」なら、特急いなほ号も自由席ならそのまま乗れますからね。
9時20分、代行バス154便は、余目駅を発車しました。
道路工事の影響により4分遅れで狩川駅に到着
余目駅から国道47号線に合流するところで道路工事をやっており、片側通行になっていた関係で、いきなり4分ほどの遅延が発生します。
国道47号線を進んでいきます。最初の停車駅「南野駅」は、国道47号線から南側に少し入ったところにある「余目第四公民館」の駐車場でした。乗降客はなく、代行バスは再び国道47号線に戻ります。
次の「狩川駅」には9時43分頃に到着。本来の狩川駅の駅前にバス停がありますが、国道47号線からは入れないため、生活道路のような細い道に入っていきます。大型のバスは速度を出せず、遅れも回復しません。
鉄道では、南野駅→狩川駅間の所要時間は4~5分ですが、代行バスでは9分と倍の時間がかかります。国道から外れて、駅前まで入るため、時間がかかってしまうようです。
狩川駅を出発しても、しばらくは細い県道を走っていきます。国道と違って集落の中を通っていくので、外を見ていると、コミュニティバスの停留場があちこちにあります。代行バスは、あくまでも鉄道の「代行」ですので、駅ではないところには停車しませんが、コミュニティバスの停留所にも停車すれば、地元の人にとっては、鉄道より便利なのではなかろうか?などと考えてしまいます。
最上川を眺めながら国道47号線沿いの駅に停車
国道47号線から脇道に入って清川駅に停車。乗降客はありません。再び国道47号線に戻ると、車窓の左側には最上川がよく見えるようになってきます。
ずっと最上川を眺めながらの旅が続きます。国道47号線、陸羽西線ともに、最上川の左岸に敷かれていますが、ほとんどの区間で国道47号線のほうが最上川に近い側を通っています。そのため、陸羽西線からの車窓よりも、最上川を間近に眺めることができるのです。
午前10時ちょうど、高屋駅に到着。本来の高屋駅は、国道47号線から側道を登った土手の上にありますが、代行バスの停留所は国道47号線沿いにありました。
国道47号線を走行するようになってから、速度を出せるようになったためか、高屋駅到着時点で遅延を回復していました。とはいえ、清川駅→高屋駅間は、鉄道では6分のところを、代行バスのダイヤでは12分となっています。
高屋駅を発車しても、最上川沿いを走っていきます。車窓にはずっと最上川が見えています。なかなか素晴らしい車窓だと思います。
高屋駅から古口駅へ向かう途中、国道47号線と陸羽西線の位置が入れ替わります。ただ、古口駅に到着する前に、また国道が最上川側へと入れ替わります。
国道47号線から右へ細い道に入ると、10時12分、古口駅に到着です。古口駅は、最上川舟下り観光の拠点駅ですが、平日のこの時間では乗降客はありません。
新庄古口道路を経由して終点の新庄駅へ
古口駅を出発すると、最上川沿いの国道47号線と分かれて、新庄酒田道路を構成する「新庄古口道路」へ。最上川を超えていきます。
新庄古口道路はすぐに終わり、県道34号線(新庄戸沢線)を左折。田園風景の中を進んでいくと、セブンイレブンの前で停車しました。
このセブンイレブンの前が、代行バスの津谷駅。陸羽西線の津谷駅とは1kmほど離れています。本来の津谷駅よりも町の中心地に近そうですが、津谷駅の周囲にも住宅街が広がるので、津谷駅の利用者の中にはかなり不便になってしまった方もいるのではないでしょうか。
この津谷駅では1名が乗車。途中駅では初めての乗車がありました。
津谷駅を出発して、再び最上川を渡り、県道34号線に沿って走ります。
10時28分ごろ、何もないところに停車したと思ったら、ここが代行バスの羽前前波駅のようです。本来の羽前前波駅はもう少し南側にありますが、それほど離れてはいないようです。駅へ続く道が細いので、県道沿いに代行バスの停留所を設置しているようです。
代行バスのダイヤは余裕を持ったものになっているのか、渋滞などがないと、各停留所で2~3分ほど停車するようです。
羽前前波駅を出発して、県道34号線を少し走ると、最後の途中駅、升形駅に到着。この升形駅も、本来の駅ではなく、県道34号線沿いに設置されていました。といっても、駅まで100メートルほどしかありません。
バスは次第に市街地へと入っていき、10時47分ごろ、定刻よりも2分ほど早く、新庄駅に到着しました。新庄駅までのきっぷを運転手に見せてから下車します。
結局、津谷駅で乗車した1名以外は、余目駅から新庄駅までの全区間を乗りとおしました。
最上川の車窓は素晴らしいものの地元民の利用は皆無
ということで、陸羽西線の代行バスの乗車記をお届けしました。
国道47号線を走る区間、特に清川駅~古口駅の間は、最上川の車窓が素晴らしかったです。乗車記でも触れましたが、鉄道の線路よりも国道47号線のほうが最上川に近いため、鉄道の車窓よりも良いと思います。それほど乗客が多くなかったこともあり、代行バスの乗り心地も快適でした。
一方、代行バスは所要時間がかなり増えています。今回乗車した便は、154D列車の代行だと思われますが、所要時間は1.7倍にもなります。
- 鉄道(154D): 余目 10:03発 → 新庄 10:54着(所要時間 51分)
- 代行バス(154便): 余目 09:20発 → 新庄 10:49着(所要時間 89分)
所要時間がこんなに増えてしまっている理由の一つが、狩川駅や清川駅、古口駅など、幹線道路から外れたところにある駅前までバスが入っていくためです。
また、国道47号線などの幹線道路を走る区間でも、カーブが多く、そこまで速度を上げることができません。陸羽西線は、ローカル線にしてはかなり飛ばす路線ですので、どうしても代行バスは所要時間の点では不利になってしまいます。
平日の午前9時台の便ということもありますが、地元民の利用がほとんどなかったのが気がかりです。途中駅での乗降は1名のみで、他は全区間を乗りとおす旅行者でした。もともと、酒田・余目~新庄間の需要は大きくないうえに、酒田・余目側と新庄側のローカル輸送でさえもほとんどないとすると、陸羽西線の存続に影響を及ぼしそうです。
すでに陸羽西線に並行する国道があるところに、さらに高規格な「新庄酒田道路」を建設するということですから、陸羽西線にとっては今まで以上に逆風が強くなりそうです。それに、2年間も鉄道が運休してしまうと、鉄道離れが進んでしまう恐れもあります。
JR東日本によると、陸羽西線の輸送密度は192人/日(2021年度)。コロナ前の2019年度でも343人/日となっています。2022年7月に国交省が公表した「鉄道事業者と地域の協働による地域モビリティの刷新に関する検討会」の提言によれば、輸送密度2,000人/日未満の線区を対象に、地域モビリティのあり方について、事業者と自治体で協議し、3年以内に結論を出すことを求めています。
陸羽西線が協議の対象になった場合、2024年度中とされている運転再開にも影響する可能性がありそうです。ローカル輸送が少ないとすると、沿線自治体にとっても、何らかの負担をしてまで存続させるモチベーションがないかもしれません。協議の対象となるのか、そして、協議の対象となった場合、どんな結論が出るのか、今後、注目していきたいところです。
以上、「【陸羽西線 代行バス乗車記】最上川の車窓が美しいものの所要時間は鉄道の1.7倍! 地元民の利用が少ないのが気がかり」でした。代行バスで快適な旅を楽しめましたが、今後の陸羽西線の行く末が気になるところです。
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