千葉県の木更津駅と上総亀山駅を結ぶ久留里線に久々に乗車してきました。亀山湖で開催されているJR東日本の「駅からハイキング」にあわせて、普段は日中時間帯にほとんど列車が走らない久留里~上総亀山間で大増発を実施しています。増発された列車の様子なども含めて、乗車記をお届けします。
営業係数関東ワーストの久留里線とは?
久留里線は、千葉県の木更津駅(内房線)と内陸部の上総亀山駅を結ぶ非電化路線です。距離は32.2km、駅数は14で、全ての列車が各駅に停車する普通列車です。全線が単線です。
木更津~久留里間は1日17往復、朝から夜までほぼ1時間に1本の列車が運転され、木更津近郊の通勤通学輸送を担っています。
一方、末端部の久留里~上総亀山間は1日8.5往復(下り8本、上り9本)。木更津近郊に比べると列車の本数が半減します。1日8.5往復もあれば、ローカル線としてはそれほど少ない方ではないかもしれませんが、問題はその時間帯。朝と夕夜間に集中していて、日中時間帯はほとんど列車がありません。久留里→上総亀山の下り列車では、朝8時台の列車の次は13時台、その次は16時台といった具合です。
JR東日本が公開している「線区別収支」によると、久留里線の運輸収入と営業係数は以下のようになっています。
年度 | 木更津~ 久留里 |
久留里~ 上総亀山 |
---|---|---|
2019年度 | 8,700万円 (1,200) |
200万円 (15,546) |
2020年度 | 6,300万円 (1,367) |
100万円 (17,074) |
2021年度 | 6,800万円 (1,273) |
100万円 (19,110) |
※運輸収入(カッコ内は営業係数)
※出典は以下のJR東日本の「線区別収支」
木更津~久留里間の営業係数(100円を稼ぐのに必要な費用)は1,200~1,300とかなり厳しい状況ですが、末端部の久留里~上総亀山間の営業係数は15,000~19,000と関東地方では断トツのワースト。ローカル線が多い東北エリアや甲信越エリアを含めても、ワースト2位~3位あたりで、かなり収益の悪い線区となっています。
ちなみに、久留里~上総亀山間の輸送密度は、以下のとおりです。
- 2019年度: 85人/日
- 2020年度: 62人/日
- 2021年度: 55人/日
1日に8.5往復の列車が走っているにもかかわらず、1日に数十人しか利用しないのです。平均すると1列車あたり数人程度。これでは、営業係数が1万をこえてしまうのも納得です。
国交省の検討会は、2022年7月、輸送密度2,000人/日未満の地域輸送に特化したローカル線については、JRと自治体が今後のあり方について協議をすべしとの提言を発表しています。
久留里線の末端部分、久留里~上総亀山間は、まさに「地域輸送に特化したローカル線」ですし、並行して国道もありますので、バス転換を視野に入れた協議が始まるのではないかと考えています。
亀山湖の観光シーズンに「駅からハイキング」開催、久留里~上総亀山間を大増発!
そんな久留里線ですが、終点の上総亀山駅のすぐ近くには、釣りやキャンプなどを楽しめる亀山湖(亀山ダム)があります。秋は紅葉が美しく、整備された遊歩道を散策することができます。
亀山湖の紅葉シーズンに、JR東日本のイベント「駅からハイキング」が開催されています。
- コース: 9年ぶりに開催!!奥房総 亀山湖紅葉ハイキング~橋めぐり~
- 開催期間: 2022年11月19日(土)~12月4日(日)
- スタート駅: 久留里線 上総亀山駅
上総亀山駅から亀山湖を一周するコースです。歩行距離は約11kmと、かなり歩きごたえがあるハイキングコースになっています。
この「駅からハイキング」の開催に伴って、久留里線の久留里~上総亀山間の列車が大増発されています。(増発期間は「駅からハイキング」開催期間と同じ11/19~12/4)
- 下り(上総亀山行き)
- 木更津 08:20発 → 久留里 09:06着/09:10発 → 上総亀山 09:29着
- 木更津 09:16発 → 久留里 10:03着/10:07発 → 上総亀山 10:25着
- 木更津 11:12発 → 久留里 11:57着/12:00発 → 上総亀山 12:19着
- 木更津 12:06発 → 久留里 12:52着/12:56発 → 上総亀山 13:15着
- 木更津 13:59発 → 久留里 14:44着/14:49発 → 上総亀山 15:08着
- 木更津 14:59発 → 久留里 15:44着/15:48発 → 上総亀山 16:06着
- 上り(木更津行き)
- 上総亀山 09:45発 → 久留里 10:03着/10:06発 → 木更津 10:49着
- 上総亀山 10:42発 → 久留里 11:00着/11:05発 → 木更津 11:48着
- 上総亀山 12:43発 → 久留里 12:52着/12:55発 → 木更津 13:37着
- 上総亀山 13:28発 → 久留里 13:46着/13:52発 → 木更津 14:35着
- 上総亀山 15:26発 → 久留里 15:44着/15:46発 → 木更津 16:28着
- 上総亀山 16:19発 → 久留里 16:37着/16:44発 → 木更津 17:26着
太字の部分が増発部分です。日中時間帯の久留里止まりの列車を、そのまま上総亀山まで運転して折り返しているようです。久留里~上総亀山間の所要時間は20分弱。ふだんは久留里駅に停車したまま木更津行きになる車両を、そのまま上総亀山まで往復させていると思われます。
1日に8.5往復の区間に6往復が増発されるわけですから、「大増発」といっても良いでしょう。もっとも、日中時間帯には列車がほとんど走らない区間ですので、増発しないと「駅からハイキング」へ向かう乗客を運ぶことができません。増発とセットのイベント開催ということです。
【久留里線乗車記】大増発の久留里線に乗って駅からハイキングへ
亀山湖の散策と紅葉狩りを楽しみに、久留里線に乗って上総亀山駅まで行ってきました。ここでは、主に久留里線の様子をお届けします。亀山湖での駅からハイキングの様子は別記事で詳しくお届けする予定です。
木更津駅から上総亀山行きの久留里線に乗車
東京駅から総武線快速の列車に乗車して千葉駅へ。千葉駅で内房線の木更津行きの普通列車に乗り換えて、終点の木更津駅までやってきました。
ちなみに、都内の自宅から今日の目的地の上総亀山駅まで、きっぷは「休日おでかけパス」1枚のみ。通常の往復運賃は4,500円以上するのですが、「休日おでかけパス」なら2,720円で済みますのでかなりお得です。「休日おでかけパス」については、以下の記事で詳しく紹介しています。
ちなみに、「休日おでかけパス」のSuica版「のんびりホリデーSuicaパス」では、久留里線に乗車できません。久留里線に乗車したい場合には、紙のきっぷの「休日おでかけパス」を購入しましょう。久留里線ではSuicaが利用できないので、「のんびりホリデーSuicaパス」のフリーエリアから外されてしまっているのです。
木更津駅から乗車する9時16分発の久留里線の列車は4番線に停車していました。乗り換え時間は13分ほどありましたが、このときはまだ車内は空いていました。ロングシートのドア横の座席を確保できました。
久留里線の列車は、この写真にあるキハE130系という車両で運転されます。
通常は久留里行きのこの列車、前述のとおり、「駅からハイキング」の開催に伴って、上総亀山駅まで延長運転されます。行先表示ももちろん「上総亀山」となっています。
発車時間が近くなってきて、急に乗客が増えました。木更津駅に9時10分に到着する特急「新宿さざなみ1号」から乗り継いだ乗客のようです。
2両編成の久留里線の列車は、座席がすべて埋まり、立ち客も出るほどの盛況ぶりで、木更津駅を発車しました。
久留里駅から延長運転へ!
久留里線の車窓は、これといって特筆すべきところはありません。木更津の市街地を抜けると、田園風景が広がる中を淡々と走っていきます。
途中駅での乗降はわずかで、車内は混雑したまま、久留里駅に到着しました。
久留里駅には10時03分に到着。かなりの下車がありましたが、車内はまだ座席が全て埋まるくらいの乗車率です。
久留里駅では4分の停車時間があります。同じく延長運転されている上り木更津行きの列車が久留里駅に到着するのが10時03分ですので、この列車との交換待ちのようです。
10時07分、いよいよ延長運転となる区間へ向けて、久留里駅を発車しました。
小櫃川に沿って上総亀山駅へ
久留里駅を出発すると、小櫃川の流れが見えてきます。太平洋に注ぐ二級河川です。上流側はこれから向かう亀山湖につながっています。
再び田園風景が広がります。地図を見ると、小櫃川がかなり蛇行していて、久留里線の線路に近づいてくるところでは谷のような地形に、離れるところでは田園風景が広がっています。
ワンマン運転ですが、車掌が乗務して車内できっぷの販売や清算をしています。Suicaでそのまま乗車してしまう乗客がとても多いようで、その清算がほとんどだったようです。木更津駅で改札を出ずに乗り換えられてしまうので、そのままSuicaで乗れると思ってしまいますよね……。
久留里駅から先、途中駅での乗降はほとんどなく、終点の上総亀山駅に到着しました。
上総亀山駅は無人駅。駅舎への通路がホーム先端にあることもあってか、終着駅ですが運転士の後ろ側のドアしか開きませんでした。運転士に「休日おでかけパス」を見せて下車しました。
ホームから駅舎へ続々と乗客が歩いていきます。この多くが「駅からハイキング」の参加者でしょう。最終的に、2両編成の列車の座席がほぼ埋まった状態で到着しましたので、70~80名くらいは下車したはずです。この列車1本で、久留里~上総亀山間の1日の平均輸送人員を超えています。
何もない上総亀山駅前
上総亀山駅前には、商店のようなお店が一つある以外は何もありません。駅舎とトイレがあるだけです。下車した人たちも、足早に亀山湖のほうへと歩いて行ってしまいました。
上総亀山駅の少し先に車止めがあります。道路のすぐ脇にあるので、近くから見ることができます。
車止めの向こうには、先ほど乗ってきた久留里線の列車が停車しているのが見えます。このあと、10時42分発の木更津行きとなって発車していくはずです。この列車の上総亀山~久留里間も延長運転ですね。
日中唯一の定期列車に乗車
上総亀山駅で列車を下りたあとは、「駅からハイキング」で亀山湖周辺を散策しました。11月下旬の日曜日、紅葉はまだそれほどでもありませんでしたが、お天気に恵まれて、散策を楽しむことができました。
散策を楽しんだあとは、上総亀山駅から14時26分発の木更津行きの列車に乗車します。この列車は、日中時間帯で唯一の定期列車です。上総亀山14時11分着の折り返し列車です。
この列車も、上総亀山駅発車時点でほぼ座席が埋まりました。久留里駅からも観光客が乗ってきて立ち客多数に。大盛況のまま木更津駅に到着したのでした。
往路・復路ともに、輸送人員が数十人/日、営業係数が2万近い路線とは思えないほどの乗客数でした。
久留里線の末端区間は亀山湖への観光需要の発掘で乗客増なるか?
ということで、大増発中の久留里線に乗車してきました。
「駅からハイキング」の集客は予想以上で驚きました。「駅からハイキング」自体はたいしてコストがかからないイベントですし、久留里駅止まりの列車をそのまま上総亀山駅まで延長運転するだけであれば、車両も足りるのでしょう。
それなら、亀山湖への観光輸送を目的に、例えば土休日だけでも今回のような増発をしたら乗客は増えるのでは? と思いましたが、実際に亀山湖周辺を散策してみて、ちょっと難しいかなと感じました。
その理由は、一言で言えば「亀山湖は鉄道でやってくる観光客を迎えるようになっていない」ということです。
まず、上総亀山駅からの二次交通がありません。亀山湖へは徒歩圏内ですが、亀山湖畔公園や水天宮公園までは約2km、徒歩だと30分はかかります。亀山湖周辺に点在するスポットを巡ろうとすると、かなり歩く必要があります。今回はハイキングのイベントなのでいいのですが、お手軽に観光したい方には向いていません。
また、飲食店などの施設が少ないです。今回、ハイキング後に食事でもしてから帰ろうと思ったのですが、徒歩圏内には飲食店がほとんどありませんでした。お土産を買えるようなところもなく、亀山湖周辺では自販機でお茶を買っただけでした。帰りの列車を待っている間も、駅の近くでは持参したお菓子を食べたり菓子パンをかじったりしている人がたくさんいました。おそくらランチ難民になった人たちでしょう。これでは、せっかくのイベントや列車の増発を、地元経済の活性化に全く活かせていないように感じます。
とはいえ、仕方がない面もありそうです。亀山湖周辺のアクティビティといえば、釣りとキャンプが有名ですが、いずれも公共交通機関での移動には向きません。基本的にクルマ利用が前提となっているのです。
そう考えると、久留里線を観光客の集客に活用するのは難しいかもしれません。もちろん、地元と連携して、鉄道利用の観光客が気軽に利用できる飲食店などお店が増えてくれば可能性がないわけではありませんが、今回のイベントと列車の増発を活かせていない時点で、残念ながら可能性はかなり低そうです。
以上、「【久留里線】大増発中の久留里線久留里~上総亀山に乗車! 営業係数関東ワーストの久留里線は観光路線で再生なるか?」でした。思わぬ大盛況で久留里線もまだ活性化の道があるのでは? と考えてみましたが、現状では残念ながら少し厳しいようです。
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