JR各社は、シーズン別の指定席特急料金とグリーン料金の見直しを発表しました。2022年度からJR東日本が先行して導入していた「最繫忙期」を追加した4段階のシーズン別料金をJR各社が導入するとともに、JR東日本も含めてグリーン料金と寝台車利用時の特急料金にも適用することとなりました。
指定席特急料金・グリーン料金・寝台車利用時の特急料金に4段階のシーズン別料金を導入へ
JR各社は、指定席特急料金、グリーン料金、寝台車利用時の特急料金に、「最繁忙期」を追加した4段階のシーズン別の料金を導入すると発表しました。2023年4月1日乗車分から適用となります。
概要は以下のとおりです。
- 指定席特急料金
- GW、お盆休み、年末年始に「最繁忙期」を導入してシーズン別の料金を3段階から4段階に変更
- 通常期に対して、閑散期は200円引き、繁忙期は200円増し、最繁忙期は400円増し
- JR東日本が2022年4月から導入したシーズン別料金は変更なし
- JR北海道の在来線特急列車は対象外(通年で通常期)
- グリーン車・寝台車利用時の特急料金
- 現在、シーズン別料金の設定がないグリーン車、寝台車利用時の特急料金に4段階のシーズン別料金を導入
- 通常期に対して、閑散期は200円引き、繁忙期は200円増し、最繁忙期は400円増し
- JR北海道の在来線特急列車は対象外(通年で通常期)
詳しくは、JR各社のニュースリリースをご確認ください。
JR東海・JR西日本(北陸新幹線以外)・JR四国・JR九州が「最繁忙期」を導入へ
JR東海・JR西日本(北陸新幹線以外)・JR四国・JR九州の4社が、指定席特急料金に「最繁忙期」を追加したシーズン別の料金体系に見直します。
現在、通常期、閑散期(200円引き)、繁忙期(200円増し)の3段階となっているシーズン別特急料金に、最繁忙期(400円増し)を加えた4段階とします。シーズン別特急料金の変更イメージは、以下のようになります。
(出典)シーズン別の指定席特急料金の見直しとグリーン車等への適用について(JRグループ 2022年10月26日 PDF)
この変更は、2022年4月にJR東日本の新幹線と一部の在来線特急列車に適用したものと同じです。JR北海道以外の各社も、JR東日本と同様の4段階のシーズン別料金を適用することとなります。ただし、シーズン別料金の適用カレンダーが、今回導入する4社とJR東日本では異なります。
なお、JR北海道の在来線特急列車は適用外となり、今後も通年同額となります。また、JR九州の西九州新幹線・在来線特急列車については、閑散期を適用しない3段階(最繁忙期、繁忙期、通常期)の料金体系となります。
JR東日本・JR東海・JR西日本・JR四国・JR九州がグリーン車・寝台車利用時の特急料金にシーズン別料金を適用
JR東日本・JR東海・JR西日本・JR四国・JR九州の5社は、これまでシーズン別料金の適用外だったグリーン車および寝台車利用時の特急料金にも、前述の指定席特急料金と同様の4段階のシーズン別料金を適用します。
(出典)シーズン別の指定席特急料金の見直しとグリーン車等への適用について(JRグループ 2022年10月26日 PDF)
現在は、グリーン車・寝台車利用時の特急料金は、通常期の指定席特急料金から530円を引いた金額(自由席特急料金と同額)に、グリーン料金・寝台料金を加算したものとしています。これが、2023年4月以降は、特急料金部分にシーズン別料金が適用されることになります。グリーン料金、寝台料金部分に変更はありません。
なお、JR北海道の在来線特急列車と、JR東日本の首都圏を中心とした在来線特急列車(新たな着席サービスを提供している特急列車)は適用外となり、今後も通年同額となります。また、JR九州の西九州新幹線・在来線特急列車については、閑散期を適用しない3段階(最繁忙期、繁忙期、通常期)の料金体系となります。
JR各社の新幹線・特急列車のシーズン別料金一覧
JR各社の新幹線、特急列車の特急料金やグリーン料金のシーズン別料金は、各社が独自に変更したり、適用外の列車があったりと、非常に複雑になってきました。
以下に、現在(2023年3月末まで)と2023年4月以降の、JR各社の主要な新幹線・在来線特急列車のシーズン別特急料金の適用状況をまとめます。
会社 | 列車 | 現在 | 2023年4月~ | 備考 |
---|---|---|---|---|
JR北海道 | 在来線特急列車 | × | × | 通年同額 |
北海道新幹線 | 〇(4段階) | 〇(4段階) | 2022年度に導入済み | |
JR東日本 |
東北・山形・秋田・ 上越・北陸新幹線 |
〇(4段階) | 〇(4段階) | 2022年度に導入済み |
新たな着席サービスを 提供している特急列車 |
× | × | 通年同額 | |
上記以外の特急列車 | 〇(4段階) | 〇(4段階) | 2022年度に導入済み | |
JR東海 | 東海道新幹線 | △(3段階) | 〇(4段階) | 2023年度から4段階 |
在来線特急列車 | △(3段階) | 〇(4段階) |
2023年度から4段階 踊り子、ふじさん除く |
|
JR西日本 | 北陸新幹線 | 〇(4段階) | 〇(4段階) | 2022年度に導入済み |
山陽新幹線 | △(3段階) | 〇(4段階) | 2023年度から4段階 | |
在来線特急列車 | △(3段階) | 〇(4段階) | 2023年度から4段階 | |
JR四国 | 在来線特急列車 | △(3段階) | 〇(4段階) | 2023年度から4段階 |
JR九州 | 九州新幹線 | △(3段階) | 〇(4段階) | 2023年度から4段階 |
西九州新幹線 | △(2段階) | △(3段階) |
2023年度から3段階 閑散期なし |
|
在来線特急列車 | △(2段階) | △(3段階) |
2023年度から3段階 閑散期なし |
|
JR各社 | しなの号 | △(3段階) | 〇(4段階) | 2023年度から4段階 |
サンライズ号 | × | 〇(4段階) | 2023年度から導入 |
JR北海道の在来線特急列車と、JR東日本の「新たな着席サービス」を提供している特急列車(首都圏の主な在来線特急列車)は、今後も通年同額のままとまりますが、例外はこの2社の列車だけとなります。
各社の新幹線、上記以外の在来線特急列車には、基本的に「最繁忙期」が導入され、4段階(JR九州の西九州新幹線、在来線特急列車は閑散期なしの3段階)のシーズン別特急料金に統一されます。
JR各社のシーズン別特急料金の導入目的は需要の平準化? それとも値上げ?
2022年度から、JR東日本が新幹線と一部の在来線特急列車に、最繁忙期を含む4段階のシーズン別特急料金をいち早く導入しました。
通常期の400円増しの「最繁忙期」を導入して、4段階のシーズン別料金となりました。このときのニュースリリースには、
ご利用が集中する年末年始やGW・お盆期間などのご旅行の際に、ご利用日をピーク期間の前後にずらしていただくとお求めやすい価格となるよう
とあり、少なくとも表向きには、年末年始やゴールデンウィーク、お盆休みの混雑の平準化を目的としたものとなっています。
ただ、この時のSNS等での反応としては、通常期との差がたった400円では、旅行や帰省の時期をずらすには差が小さすぎる、休みが取れる時期は変わらない、などといったものが多かったです。そもそも、時間に融通のきく方々は、あえて混雑が激しいお盆休みやゴールデンウィークに旅行をすることはなく、空いている時期を選ぶでしょう。ホテルや旅館の宿泊費も安いですし、旅行の満足度も高いからです。
となると、実態は値上げによる増収を狙っているのでしょうか?
今回のJRグループのニュースリリースに、最繁忙期、繁忙期、通常期、閑散期の日数がどのくらい変わるのかの表が出ていましたので、抜粋します。
最繁忙期 | 繁忙期 | 通常期 | 閑散期 | |
---|---|---|---|---|
現行 | - | 84日 | 199日 | 83日 |
改定後 | 18日 | 71日 | 169日 | 108日 |
差 | +18日 | -13日 | -30日 | +25日 |
従来の繁忙期が84日だったのに対して、最繁忙期18日+繁忙期71日=89日となり、5日増えます。閑散期は83日から108日へと25日増えます。
最繁忙期+繁忙期の合計が5日しか増えていないのに対して、閑散期は25日増えています。一方、最繁忙期・繁忙期と閑散期では利用状況に大きな差があります。
最繁忙期での増収分と、閑散期が増えたことによる減収分があり、トータルでどうなるのかはわかりません。もし増収になったとしても、経営にインパクトがあるレベルの増収にはつながらないと思われます。
本当は実現したいピークシフトも料金制度の硬直化が課題
JR各社も、本当は平準化を狙っているのだと思います。繁忙期・閑散期の平準化とは異なりますが、JR東日本は、通勤時間帯の混雑緩和のための「オフピーク定期券」の導入を予定しています。
ある期間の乗客数が同じであれば、繁忙期と閑散期があるよりも、常にほぼ一定の需要があるほうが、全体のコストは下がります。鉄道会社は、ピーク時の需要にあわせて車両や人員を用意していますが、ピークの山が下がれば、必要となる車両や人員も少なくて済みます。
コロナ禍で大きなダメージを受けて、コロナ後も完全に需要は回復しないと見ている鉄道会社にとって、固定費の削減は急務です。ピークの平準化が実現できれば固定費を減らせますので、料金制度の改正でそれを狙っているのだと思います。
ところが、前述のとおり、数千円~1万円以上する新幹線・特急列車の運賃+料金に対して、たった200円~400円の差では、ピークシフトは実現しないでしょう。航空運賃のように、閑散期と繁忙期で2倍くらいの差がないと難しいと思います。
その点では、現行の鉄道運賃の制度が硬直化しているのが問題です。現在の制度では、運賃と新幹線の特急料金は認可制、特急料金は届け出制になっています。認可あるいは届け出をするのは、運賃・料金の「上限」で、上限以下の料金は自由に設定できます。
それなら、現行の2倍くらいの運賃や料金を申請して、通常時は上限の50%くらいに、繁忙期には上限に設定すれば……と思うのですが、現行制度ではそうもいきません。特に、認可制となっている運賃と新幹線の特急料金では「総括原価方式」が採用されています。この方式では、適正な原価に適正な利潤を加えた額が、運賃収入を超えてはいけないという仕組みになっています。つまり、実際に認可を受けた上限運賃を実際の運賃に設定しないと、鉄道会社としては利益が得られないわけです。
鉄道運賃制度の問題については、国土交通省も認識していて、2022年2月~7月に「鉄道運賃・料金制度のあり方に関する小委員会」が開催されました。2022年7月には中間とりまとめがなされましたが、当面は、現行の運賃・料金制度を前提に、①総括原価の算定方法の見直し、②現行制度の運用の改善・工夫、③地方部における地域モビリティの維持・確保に向けた制度見直し、について検討を開始するとなっています。つまり、抜本的な制度の見直しは先送りされたわけです。
このような現状から考えると、今回、JR各社が導入する400円増しの「最繁忙期」は、現行制度で実現できる範囲の限界なのかもしれません。現行制度でできる範囲は実現したから、あとは料金制度の見直しを急いでほしい、そんなJR各社からのメッセージにも思えます。
以上、『JR各社が指定席特急料金・グリーン料金に「最繁忙期」を導入、寝台車利用時の特急料金にも適用へ! 狙いは需要の平準化か値上げか?』でした。アフターコロナや、本格的な人口減少時代を迎えて、鉄道の運賃・料金制度も曲がり角にきていると思われます。今後、どのような方向に進むのか、注目したいと思います。
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