JR東日本は、2011年7月の新潟・福島豪雨により長期に渡って不通となっていた只見線の会津川口~只見間の運転を、2022年10月1日に再開すると発表しました。これで只見線は全線での運転再開となります。
福島県が復旧費用の3分の2を負担、復旧後も上下分離方式で自治体が鉄道施設を維持する条件での復旧です。年間2.1億円にもなるといわれている維持費を負担するだけの経済効果を見出せるかが課題となりそうです。
2022年10月1日、只見線 会津川口~只見間の運転を再開!
JR東日本は、2011年7月の新潟・福島豪雨により長期に渡って不通となっていた只見線の会津川口~只見間の運転を、2022年10月1日に再開すると発表しました。
ニュースリリースの概要は以下のとおりです。
- 只見線の会津川口~只見間を2022年10月1日(土)に運転再開
- これにより、只見線は全線で運転を再開
- 全線運転再開後、会津川口~只見間で1日3往復の列車を運転
- いずれも、会津若松~小出間の只見線全線を走破する列車
- ダイヤは別途発表予定
- 全線運転再開日となる10月1日に記念式典やイベントを開催、記念列車の運行を予定
これにより、只見線は、11年ぶりに、全線での運転再開となります。
2011年7月の新潟・福島豪雨により会津川口~只見間が不通に
只見線は、2011年7月の新潟・福島豪雨では、第5・第6・第7只見川橋りょうの3つの橋が流されるなど、甚大な被害を受けました。
橋りょうの一部が流失した第5只見川橋りょうです。右側の部分が流失してしまっているのがわかるでしょうか。工事開始前に代行バスから撮影したものです。
こちらは、橋脚だけ復旧した時点の第6只見川橋りょうです。2019年12月に乗車した時に、代行バスから撮影しました。詳しくは、以下の乗車記をご覧ください。
このように、3つの橋梁が流されるという甚大な被害を受けてしまった只見線ですが、復旧までに11年もの長い年月を要したのには、他にも理由があります。
被災後に、JR東日本が復旧費用を試算したところ、100億円を超えることがわかりました。これを受けて、JR東日本は、不通区間の鉄道廃止とバス転換を提案しました。
JR東日本の提案内容は、これまで鉄道で1日3往復(合計6本)だった区間に、バスを下り6本、上り7本運行させるものでした。運行時間も、鉄道の44分に対して、バスは50分と、それほど所要時間が延びるものではありません。また、鉄道が8駅なのに対して、バスの停留所を最低でも11か所設けるというものでした。バス路線はJR東日本が運行するため、福島県や沿線自治体の負担はありません。
ところが、福島県や沿線自治体は、地域振興のためには鉄道が必要であると主張。鉄道での復旧にこだわり、結果として、復旧費用の3分の2を負担、復旧後は上下分離方式で鉄道施設の維持管理をする条件で、2017年にJR東日本と「只見線(会津川口~只見間)の鉄道復旧に関する基本合意書及び覚書」を締結。これにより、ようやく復旧工事が開始されたという経緯があります。
このあたりの経緯については、以下の記事で紹介していますので、ぜひご覧ください。
地域輸送の利便性よりも地域振興を優先、会津若松・小出との直通を活かせるか?
福島県や自治体が莫大な負担をしてようやく復旧した只見線ですが、代行バスと比べると運転本数は半減してしまいます。もともと、地域輸送ではなく、観光を含む地域振興のために鉄路での復旧を選んだわけですが、これを活かせるかが課題になってきます。
代行バス6.5往復から鉄道3往復へと大減便!
鉄道が不通となっている間、JR東日本は、代行バスを運転しています。実は、この代行バスが、JR東日本がバス転換の提案をした内容と同じ6.5往復(下り6本、上り7本)なのです。
前述のように、鉄道が復旧したあと、列車の本数は1日3往復。バスと鉄道の違いがあるとはいえ、本数は半減してしまうのです。
不通区間の地域輸送だけを考えるのであれば、JR東日本のバス転換案のほうが明らかに利便性が高いですし、自治体の負担もゼロです。つまり、地域輸送の利便性を捨ててまで、地域振興を優先したということです。
個人的には、その方針自体が悪いとは思いません。問題は、会津若松や小出と直通する鉄路を、本当に地域振興に活かすことができるかというところになります。
鉄道施設維持のための負担は2.1億円! 年間2億円の経済効果を得られるか?
今後、福島県が鉄道施設の維持管理のために必要な負担は年間2.1億円。年間2億円を税金から支出するわけですから、地域振興として2億円以上の経済効果を達成できなければいけません。地域輸送だけであれば、JR東日本の提案をのんでいれば、自治体の負担はなかったわけですから。
一方、被災前と同じように、会津若松~小出間に1日3往復の普通列車を走らせるだけでは、何の経済効果もないでしょう。復旧直後であれば、鉄道ファンが乗ってくれでしょうが、それも最初だけ。被災前の2010年の会津川口~只見間の輸送密度は49人/日ですから、何もしなければ、最終的にはこれと同じくらいか、あるいは、少子高齢化・人口減少が進んでいる分だけ、さらに輸送密度は落ちてしまうでしょう。
コロナ禍でダメージを受けたJR東日本の施策は望み薄
さらに悪いことに、2020年からのコロナ禍により、JR東日本は2年連続の大赤字に転落。今年度も黒字に復帰できるかは微妙な状況です。
そんな状況ですから、JR東日本が自発的にコストを掛けて只見線の需要発掘に取り組むとは思えません。実際、東北地方を走っていた観光列車「みのり」や「とれいゆつばさ」が引退したあと、代替の観光列車は運転されていません。
復旧工事を実施している間も、新緑や紅葉の時期を中心に、新潟方面や会津若松方面から臨時列車を走らせてはいました。とはいえ、年に数日だけ走る臨時列車では、「地域振興」につながるような経済効果は見込めないでしょう。
上越新幹線・磐越西線とのネットワークを活かせる観光列車が必要
地域振興につながるような経済効果を観光から得ようとすると、只見線が接続する上越線(上越新幹線)と磐越西線とのネットワークを活用するほかはありません。特に、首都圏からの観光需要を発掘しようとすると、上越新幹線が停車する越後湯沢駅、浦佐駅から只見線に直通する観光列車が必要でしょう。
それも、たまに走る臨時列車ではなく、土休日にコンスタントに走る列車が必要になるでしょう。JR東日本の例でいえば、「リゾートしらかみ」や「海里」、「HIGH RAIL 1375」のように、「〇〇線といえばこの観光列車!」のように、観光客にわかりやすい列車が必要になると思います。
このようにして、日常的に、会津への観光ルートとして、上越新幹線+只見線を利用してもらうようにすることや、会津を訪れる観光客を少しでも只見線沿線に引き込む施策が必要になりそうです。
そして、これを自治体が主導してやる必要があります。何なら、自治体が車両を製造して、JR東日本に運行を委託するくらいをしないと、実現できないと思われます。
ローカル線の廃止議論にも影響あり?
コロナ禍での鉄道事業者の収益悪化を受けて、国交省はローカル鉄道のあり方に関する検討会を開催しています。
JR東日本も、ローカル線の線区毎の収支を公表する予定になっています。
只見線全線での輸送密度は、被災前の2007年度は404人/日、コロナ禍前の2019年度が271人/日、2020年度は233人/日まで減っています。区間毎で見ても、輸送密度が1,000人/日を超える会津若松~会津坂下以外は、100~200人/日と、いつバス転換を持ちかけられてもおかしくない状況です。
収支で見れば、会津川口~只見間が上下分離方式となったことで、おそらく大幅に改善すると思われますが、それでも大赤字であることには変わりないでしょう。
好条件を得て復旧させた以上、会津川口~只見間をすぐに廃止することはないと思われますが、それ以外の部分は引き続きJR東日本が鉄道施設を保有します。どこか一部でも廃止されてしまったら、鉄道ネットワークがつながらなくなってしまうため、福島県が考えている地域振興も実現できなくなってしまいます。
そういう意味では、時間がありません。運転再開日が決まりましたので、福島県や沿線自治体は、すぐにでもJR東日本に提案を持ちかける必要があるように思います。
以上、「2022年10月1日、11年ぶりに只見線全線運転再開へ! 只見線を地域振興に活かすには課題山積も!」でした。只見線は、里山の風景や只見川の車窓が魅力的な鉄道です。せっかく莫大なコストをかけて復旧した鉄路ですから、首都圏から近いメリットを活かせる列車を走らせてほしいところです。
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