北海道の鉄道ワーキングチーム フォローアップ会議が、北海道の鉄道網のあり方を公表しました。JR北海道の「単独では維持困難な線区」に対応したものです。これによると、宗谷線、石北線は「幹線交通ネットワーク」とされていて存続が前提となっているのに対し、札沼線、日高線等は「他の交通機関や利用の状況などを踏まえる必要」とされていて、鉄道網維持の優先度は低そうです。
北海道が「鉄道網(維持困難線区)のあり方」を公表
北海道の鉄道ワーキングチーム フォローアップ会議の第3回集中審議が2月3日に行われ、その場で取りまとめられた報告書が、2月10日の総合交通政策検討会議に報告されました。
交通政策局のページ(総合的な交通施策の推進) | 総合政策部交通政策局交通企画課
報告書は、以下のPDFファイルをご覧ください。
注目は、JR北海道が公表している「単独では維持困難な線区」のそれぞれについて、「鉄道網のあり方」が公表されたことです。
各路線・線区の優先度は?
北海道の鉄道ワーキングチームのフォローアップ会議では、一時、維持困難線区を5段階の優先度に分けて検討をしていましたが、沿線自治体からの反発もあり、明確な優先度は取り下げたようです。
ただし、報告書で提言された「鉄道網のあり方」を見てみると、主に以下の3つに分類されるようです。
- 幹線交通ネットワークとして「維持に向けてさらに検討を進めるべき」とされた線区
- 宗谷線(名寄~稚内)
- 石北線(新旭川~網走)
- 「路線の維持に努めていくことが必要」とされた線区
- 根室線(滝川~富良野)
- 富良野線(富良野~旭川)
- 釧網線(東釧路~網走)
- 根室線(釧路~根室)
- 日高線(苫小牧~鵡川)
- 室蘭線(沼ノ端~岩見沢)
- 「他の交通機関との代替も含め、地域における検討・協議を進めていくことが適当」とされた線区
- 留萌線(深川~留萌)
- 根室線(富良野~新得)
- 札沼線(北海道医療大学~新十津川) ※「バス転換も視野に」と記載
- 日高線(鵡川~様似)
優先度高は宗谷線・石北線、厳しいのは札沼線・日高線・留萌線か?
今回の報告書からは、「維持に向けてさらに検討を進めるべき」「路線の維持に努めていくことが必要」とされた合計8線区については、鉄道維持の方向で、JR北海道や国、沿線自治体等の関係機関と協議していくことになるでしょう。
そのうち、最も優先度が高そうなのは、「幹線交通ネットワーク」として位置づけられた、宗谷線と石北線です。宗谷線は、ロシア極東地域との交流、石北線は貨物輸送を考慮、とあり、いずれも路線の維持を補強する記述になっています。
一方で、幹線交通ネットワークとは対極に位置する、地域の足としての線区、すなわち、札沼線、日高線、留萌線などは、いずれも「他の交通機関との代替も含め」となっており、北海道としては鉄道維持を前提とせず、バス転換も含めた選択肢を探っていくような記述になっています。特に、札沼線については、「バス転換も視野に」と明確に書かれており、北海道としては何が何でも鉄道を維持すべきとは考えていないと思われます。
これらの線区の行方は、沿線の自治体がどこまで路線維持に協力するか、単刀直入に言えば、どこまでお金を出すか、にかかっていると思い餡巣。
「路線の維持に努めていくことが必要」とされた線区がどこまで維持されるかが今後の焦点か?
今後の焦点は、「路線の維持に努めていくことが必要」とされた6線区が、どこまで維持されるか、ということになりそうです。
報告書をよく読むと、この6線区にも優先度が付けられていることがわかります。
線区 | 「鉄道網のあり方」の記述 |
---|---|
根室線 (滝川~富良野) |
鉄道貨物輸送が地域の農産物を輸送する役割を一部担っている 路線の維持に努めていくことが必要 |
富良野線 (富良野~旭川) |
観光客の利用だけで鉄道を維持していくことは難しい 路線の維持に最大限努めていくことが必要 |
釧網線 (東釧路~網走) |
観光客の利用だけで鉄道を維持していくことは難しい 路線の維持に最大限努めていくことが必要 |
根室線 (釧路~根室) |
北方領土返還運動の拠点として重要な役割を有する北方領土隣接地域 路線の維持に最大限努めていくことが必要 |
日高線 (苫小牧~鵡川) |
他の交通機関での代替の可能性も踏まえつつ 路線の維持に努めていくことが必要 |
室蘭線 (沼ノ端~岩見沢) |
路線の維持に努めていくことが必要 |
「路線の維持に最大限努めていくことが必要」のように「最大限」とわざわざ記載されている富良野線、釧網線、根室線(釧路~根室)の3線区の優先度が高いように見えます。
「他の交通機関での代替の可能性も踏まえつつ」という記述が含まれる日高線(苫小牧~鵡川)は、これらの6線区の中では、鉄道維持という観点での優先度は低そうです。もっとも、この区間は、日高線の残りの区間(鵡川~様似)がどうなるのかも影響しそうです。
観光路線の富良野線・釧網線の行方は?
観光路線の富良野線・釧網線は、
・ 現状の観光利用だけで、鉄道を維持していくことは難しい。
・ 関係機関が一体となって、観光路線としての特性を発揮するよう取組を行う必要。
(出典)「北海道の将来を見据えた鉄道網(維持困難線区)のあり方について」(上記リンク参照,以下同様)
という記述がされています。
観光利用だけで鉄道を維持していくことが難しいというのは、そのとおりでしょう。ただし、一方では、「観光路線としての特性を発揮するように取り組みを行う必要」とも書かれています。
これは、「現状の観光利用だけでの維持は困難だが、さらに観光利用が増加し、北海道にとっても観光客が増えるような取り組みができるのであれば、維持するに値する」ということではないかと思います。
路線単体での赤字解消は難しくても、観光を推進する北海道として、なくてはならない路線になるのであれば維持すべき、ということでしょう。
貨物列車が走る室蘭線・根室線(滝川~富良野)はどうなる?
貨物列車が走る室蘭線と根室線(滝川~富良野)の2線区は、旅客輸送だけでなく、物流の観点からの検討も必要です。
このうち、定期的に貨物列車が走る室蘭線については、
輸送実績及び鉄道施設の維持に要する費用負担並びに代替ルートとなりうる千歳線の厳しい線路容量等
を考慮
道内全体の物流の効率化・最適化の観点から、トラック輸送や海上輸送も含めて総合的に対策を検討していくことが適当
という記述があります。千歳線が代替ルートになる可能性と、鉄道以外での物流の可能性も考慮しましょうということです。千歳線は1日に貨物列車が上下合わせて50本/日以上走っています。室蘭線経由の貨物列車は6本/日程度ということなので、千歳線経由でもなんとかなりそうな気もしますが、新千歳空港~札幌の旅客輸送の需要も高まっていて、線路容量不足が指摘されている点をどのように判断するかでしょうか。
一方、季節によって臨時の貨物列車が走る根室線(滝川~富良野)については、
鉄道貨物輸送が地域の農産物を輸送する役割を一部担っていることを踏まえ
道内全体の物流の効率化・最適化の観点から、トラック輸送や海上輸送も含めて総合的に対策を検討していくことが適当
という記述があります。こちらは、室蘭線とは異なり、鉄道での代替ルートがない(あるいは維持困難線区に含まれている)という事情があります。ただし、貨物列車が運転されている時期でも、2本/日ということなので、トラック輸送等への転換も検討する余地があるのかもしれません。
さらに、JR貨物に対して、より費用負担を求めることも考えられるはずです。JR貨物の線路使用料はかなり優遇されているため、JR北海道の危機的な経営状態を鑑みて、線路使用料の負担を求める交渉をするものと思います。
注目は根室線(富良野~新得)の扱い?
今回公表された「鉄道網のあり方」ですが、個人的にはおおむね妥当かなという感想を持ちましたが、唯一「おや?」と思ったのが、根室線(富良野~新得)です。
この区間の一部、東鹿越~新得間は、2016年8月の台風の被害により、現在も運休となっています。しかも、復旧工事は着手すらされていない状況です。
JR北海道の「単独で維持困難な線区」の中では、輸送密度が200人未満で、バス転換を前提に協議するとされていました。そのような事情もあり、復旧工事には着手していないのでしょう。
一方、今回の「鉄道ものあり方」では、
圏域間のネットワーク形成や、今後の活力ある地域づくりの観点に十分配慮しながら、他の交通機関との連携、補完、代替も含めた利便性の高い最適な公共交通ネットワークの確保に向け、地域における検討・協議を進めていくことが適当である。
という評価がなされています。「他の交通機関との代替も含めて」と記述された4線区の中では、もっとも曖昧な記述になっています。ほかの3線区(留萌線・札沼線・日高線)と異なり、「圏域間のネットワーク形成」という役割をどう考えるかという点があるからではないかと思います。
個人的には、「圏域間のネットワーク形成」という観点を考慮すべきという点については賛成です。
上記の記事でも書きましたが、この区間は、滝川~富良野~新得~帯広~釧路~根室を結ぶ根室本線の一部です。この区間が廃止になってしまえば、根室本線は分断されてしまいます。
現在の札幌~釧路の幹線ルートは、石勝線(南千歳~新得)経由になっているので、富良野~新得を通ることはありません。
ただ、この富良野~新得のルートは、石勝線が開通する前には、特急が頻繁に走っていた幹線ルートでした。そんな事情もあり、現在の札幌~釧路のルートが災害等で使えなくなった時の代替ルートになりうるのではないかと思います。
いつ利用するかわからない代替ルートにどこまでお金をかけるべきか、他の交通機関では代替はできないのか、といった観点での議論は必要でしょう。今回の「鉄道網のあり方」では、単に輸送密度が低い区間だから廃止するという結論を出すのではなく、北海道内のネットワークも考慮したうえで結論を出しましょう、ということだと思います。
以上、北海道が公表した「鉄道網のあり方」の話題でした。これをもとに、JR北海道、沿線自治体や国を巻き込んだ協議をしていくことになるのでしょうが、北海道としての考え方をまとめたものとして、かなりの影響力を持つことが想定されます。一刻も早く協議が進展することを期待します。
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