四国の南東部を走るミニ鉄道「阿佐海岸鉄道」(阿佐東線: 海部~甲浦)は、全長8.5km、駅数3のミニ鉄道です。1992年開業の比較的新しい路線です。四国の端っこの小さな鉄道ですが、2020年にはDMVを走らせることで注目されています。そんな阿佐海岸鉄道に乗車してきましたので、DMVの工事の様子とともに乗車記をお届けします。
阿佐海岸鉄道 阿佐東線とは?
阿佐海岸鉄道は、徳島県、高知県などが出資する第三セクターの鉄道会社です。
国鉄時代末期、国鉄再建法の施行により建設が中断された阿佐線のうち、ほどんどの構造物が完成していた阿佐東線(海部~甲浦)を引き継ぐために設立されました。
阿佐海岸鉄道が運行する阿佐東線(あさとうせん)は、四国の南東部、徳島県の海部駅と、高知県の甲浦駅を結ぶ路線です。
全長はわずか8.5km、駅は、起終点となる海部駅、甲浦駅以外には、中間駅の宍喰(ししくい)駅が一つあるだけのミニ路線です。
本来は、高知県南国市の後免と、徳島県海部郡の牟岐駅とを結ぶ路線として「阿佐線」が計画されましたが、現在は、
- 後免~安芸~奈半利: 土佐くろしお鉄道 ごめん・なはり線
- 奈半利~室戸岬~甲浦: 高知東部交通(路線バス)
- 甲浦~海部: 阿佐海岸鉄道 阿佐東線
- 海部~牟岐: JR四国 牟岐線
という形になっています。奈半利~甲浦間の鉄道は未整備で、高知東部交通の路線バスが結んでいます。
阿佐海岸鉄道では2020年にDMVが実用化へ!
阿佐海岸鉄道は、四国の片隅を走るとても小さな鉄道ですが、いま、注目されています。それは、2020年に、日本で初めて、道路と鉄路の両方を走行することができる DMV(Dual Mode Vehicle)を実用化する ことになっているためです。
もともとはJR北海道で開発されていたDMVですが、経営危機のために開発を中断。DMV自体の実用化が危ぶまれましたが、阿佐海岸鉄道がそれを引き継いで実用化することになりました。
2019年9月時点で発表されている情報は以下の通りです。
- DMV(鉄道モード)の運行区間は、阿佐海南駅~海部駅~宍喰駅~甲浦駅の4駅(10.0km)
- 阿佐海南駅~海部駅間はJR四国の牟岐線
- DMV(バスモード)の運行区間は検討中
- 鉄道モードとバスモードの転換は、阿佐海南駅、甲浦駅で実施
- 両駅に線路と道路を行き来する設備を構築
- DMVの運行開始時には、現在の鉄道車両(気動車)は廃車となり、全車両がDMVとなる
- DMVの定員は20名程度(鉄道車両は約100名)
DMVの車両を3両製造する予定になっていますが、すでに2019年3月9日に、第1号車がお披露目されています。
(出典)◆ DMV(デュアル・モード・ビークル)を知っていますか? |(阿佐海岸鉄道Webサイトより)
前後にタイヤと鉄輪を備えています。鉄道モードのときには、鉄輪がガイドの役目を果たして脱線しないようにします。鉄道モードのときでも、動力を伝えるのは、後ろ側のゴムタイヤです。タイヤがレールの上に乗って走ります。
阿佐海岸鉄道 甲浦駅のDMV工事現場を見学
阿佐海岸鉄道 阿佐東線の乗車記をお届けする前に、甲浦駅をDMV対応化するための工事現場を見学してみました。
奈半利駅から高知東部交通バスで甲浦駅へ
この日は、高知駅から後免駅へ出て、土佐くろしお鉄道 ごめん・なはり線に乗車。終点の奈半利駅からは、高知東部交通の路線バスに乗って、室戸岬を観光。その後、再び路線バスに乗って、阿佐海岸鉄道の甲浦駅へ。
高知東部交通バスの室戸岬線、ずっと太平洋に沿って走りますので、かなりの絶景路線です。
DMVに向けて工事中の甲浦駅
このプレハブみたいなのが、甲浦駅の仮駅舎です。手前の小さい部屋がバス待合所、広い方の部屋が甲浦駅舎になっています。
こちらが本来の甲浦駅の駅舎。駅舎の工事に見えますが、そうではないようです。
仮駅舎にいる駅員(?)さんや、工事現場の警備をしている警備員に聞くと、高架のホームから、DMVが道路へ降りるためのスロープを作るための工事なんだそうです。
駅舎の上を通すため、駅舎の屋根の一部を削ったり取り外したりしているとのこと。スロープ自体は、直線ではなく、少しカーブさせて距離をかせぐといっていました。
工事現場に掲示されていた看板です。「斜路下部工事」となっていますが、警備員さんの話によると、土台部分の工事と構造物の工事は、業者が違うんだとか。甲浦駅を訪れた2019年8月下旬の時点では、下部工事、つまり、土台部分の工事を実施しているところでした。
甲浦駅の高架ホームです。今は行き止まりとなっているレールの先に、DMVがモードチェンジをする設備と、道路へ降りるためのスロープが作られるのです。
甲浦駅の高架ホームを見上げてみると、結構高さがありますね。この高さを安全に移動できるスロープを作るとなると、やはりカーブさせて距離をかせがないと難しそうですね。
阿佐海岸鉄道 阿佐東線 鉄道車両乗り納め乗車記
それでは、阿佐海岸鉄道 阿佐東線の乗車記をお届けします。前述のとおり、DMVが実用化されると、現在利用されている鉄道車両は廃車となり、全車両がDMVとなります。おそらく、今回の乗車が、阿佐海岸鉄道の鉄道車両の乗り納めとなるでしょう。
単行気動車は「天の川」列車
階段を上ってホームで待っていると、トンネルに列車のライトが見えてきました。
たった3駅の路線ですので、同じ気動車が行ったり来たりしているのかと思ったら、回送列車としてやってきました。時刻表を見ると、一つ前の下り列車は、途中の宍喰駅止まりだったようです。たった一駅なので、甲浦駅まで運転すればよいのに、と思いますが、乗る人がいないのでしょうかね。
やってきたのは、少し古びた単行気動車。ASA-301形という形式ですが、もともとは廃止になってしまった高千穂鉄道から譲渡された車両だそうです。
「天の川」のヘッドマークが掲げられていました。なぜ天の川? と不思議に思って、車内に入ってみると…
天井に「天の川」がありました! 片側の窓にはすだれが設置されて、その上に、海部小学校の生徒さんたちが書いた俳句が展示されていました。
もう1両の気動車は「風鈴列車」として運転されているようです。阿佐海岸鉄道のWebサイトによると、7月1日~9月1日の期間限定なんだとか。
「天の川」列車、出発!
5名ほどの乗客を乗せて、13時37分、海部行きの列車が発車します。
すぐにトンネルに入ります。「阿佐海岸鉄道」の名前のとおり、甲浦駅から歩いても海に出られるほど海に近い鉄道なのですが、周囲は森に囲まれていて、まるで山の中を走る鉄道のようです。
そして、トンネルに入ると…
天井の3000個の青と白のLEDが本領を発揮します(笑) 阿佐海岸鉄道は高架とトンネルの繰り返しで、トンネルの区間も多いのですが、この天の川のイルミネーションは、トンネル内を走っていても旅を楽しいものにしてくれます。
宍喰川を渡ると、すぐに唯一の中間駅、宍喰駅に到着しました。
宍喰駅も高架の棒線駅です。乗車する人は誰もいませんでした。
太平洋を眺めながら終点、海部へ
宍喰駅を出ると、進行方向右手に太平洋が見えてきます。ようやく「海岸鉄道」らしくなってきました。
海部駅に到着する少し前には、小さな入り江のような那佐湾の横を通過します。入り江の真ん中に小さな島も見えました。
甲浦駅からわずか11分、あっという間に終点の海部駅に到着しました。
海部駅からはJR四国の牟岐線の列車が連絡しています。阿佐海岸鉄道 阿佐東線に乗っていた多くの人(といっても数人ですが)は、牟岐線に乗り継いだようです。
以上、『【阿佐海岸鉄道 乗車記】 四国南東部を走る3駅のみのミニ鉄道、DMV導入で鉄道車両は乗り納め?』でした。来年(2020年)、予定通りDMVが導入されたら、鉄道車両でこの区間を旅することはできなくなります。鉄道車両の乗り納めをされる方はお早めに!
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