最近は、在宅勤務・テレワークを実施している方も多いことでしょう。通勤する日が減ってきた時に気になるのが、通勤定期券をどうするかです。手持ちの通勤定期券を払い戻したほうがいいのか? 新たに定期券を買ったほうがよいのか? この記事では、どのくらい通勤すると通勤定期券がお得になるのかを、首都圏の主要鉄道会社を例に紹介します。また、通勤定期券の払い戻しルールについても解説します。
鉄道会社によって異なる通勤定期券の割引率
通勤定期券は、どれくらい利用すると、普通に乗車券を買う(または、交通系ICカード利用する)のに比べてお得になるのでしょうか?
実は、鉄道会社によって、通勤定期券の割引率は異なります。下表は、鉄道各社が公表している通勤定期券の平均割引率です。
鉄道会社 | 通勤定期 平均割引率 |
備考 |
---|---|---|
東急 | 37.8% | |
西武 | 38.3% | |
東武 | 39.7% | |
京浜急行 | 42.2% | |
東京メトロ | 38.4% | |
JR東日本 | 46~60% | ※1 |
※1: JR東日本の電車特定区間の近距離の定期料金から筆者が算出
首都圏の鉄道会社では、大手私鉄と東京メトロの割引率が40%前後なのに対して、JR東日本は割引率がおおよそ50%以上と高くなっています。
大手私鉄や東京メトロは、JR東日本に比べて運賃が安いため、定期券の割引率は低めになっているようです。
なお、割引率は、定期券の有効期間の間、毎日、普通乗車券(いわゆる普通の「きっぷ」)を購入して通勤した場合と比較したものです。
首都圏 主要鉄道会社の通勤定期券の損益分岐点
JR東日本(電車特定区間)、東急、東京メトロの3社について、通勤定期券の損益分岐点を見てみましょう。
【JR東日本】割引率が高く月15回の通勤でお得に!
JR東日本の通勤定期券は、割引率が高く、1か月、3ヵ月の定期券であれば、おおむね月に15回以上(乗車回数では30回以上)、6か月の定期券であれば月に12~13回(乗車回数では24~26回以上)も通勤すればお得になります。
図の見かたですが、横軸が距離、縦軸が、1か月に何回通勤すれば、各通勤定期券がお得になるかを示しています。例えば、1か月の通勤定期券であれば、距離1~3kmで15回、距離4~10kmで16回以上の通勤で、通勤定期券のほうがお得になることを示しています。
JR東日本(電車特定区間)の通勤定期券では、30km程度までの近距離では、乗車距離による差はあまりありません。
また、1か月と3か月の通勤定期券では割引率に差はないですが、6か月の通勤定期券はかなり割引率が高くなっていることがわかります。
前述のように、6か月の通勤定期券であれば月に12~13回の通勤で元が取れます。おおむね週に3回以上の計算になります。また、年末年始やお盆休みなどで1週間ほど休暇を取ったとしても、お得になる可能性が高いです。
なお、JR東日本の「電車特定区間」とは、以下の図のエリア内です。
(出典)東京・大阪の電車特定区間の普通運賃表│きっぷのルール:JRおでかけネット
【東急】月16~19回の通勤が分岐点
東急の通勤定期券では、おおむね月に16~19回の通勤が損益分岐点となります。祝日の多い月や、在宅勤務・テレワークなどを実施する回数が多い場合には、通勤定期券を購入しないほうがよい場合もあり得ます。
月に16~19回の通勤というと、平均すると週に4~5回となります。平日の日数が多い月であれば元が取れる可能性は高いですが、祝日があったり、年末年始・お盆休みなどの休暇がある月では、元が取れなくなる可能性が高いです。
なお、東急の通勤定期券の割引率は平均37.8%です。首都圏の他の大手私鉄も、おおよそ40%前後の割引率ですので、傾向としては、ここで紹介した東急と似たようなものになると思われます。
【東京メトロ】近距離は月20回以上、週休二日だとギリギリ!
東京メトロは、乗車距離が長くなると、割引率が高くなる方式を採用しています。10kmくらいまでの近距離では、月に20回以上通勤しないと元が取れないこともあります。
11kmまでの近距離では月17~22回も通勤しないとお得になりません。距離12~19kmでは月16~19回となり、首都圏の大手私鉄と同程度です。それ以上の距離では、月16回以下、6か月定期では月14~15回以上で元が取れますので、比較的利用しやすくなります。
東京メトロは、普通乗車券(ふつうの「きっぷ」)の距離区分は5段階しかないのですが、通勤定期券の料金は1km毎に異なります。そのため、グラフがギザギザになり、損益分岐点の判断が難しくなっています。
例えば、初乗り運賃の168円(ICカード利用)では1km~6kmまで乗車できますが、通勤定期券は1km毎に料金が上がっていきますので、損益分岐点は、以下のように違ってきます。
- 【乗車距離 1km】 1か月定期: 19回以上 6か月定期: 17回以上
- 【乗車距離 6km】 1か月定期: 22回以上 6か月定期: 20回以上
東京メトロの短距離の通勤定期券を購入する場合には、乗車する区間の距離を調べて、本当にお得になるのかをよく確認したほうがいいでしょう。
「回数券」とも比較しよう!
鉄道各社は、「回数券」(回数乗車券)も発行しています。
基本的なルールは各社共通で、以下のようになっています。
- 発着駅(乗車駅と降車駅)を指定した乗車券
- 11枚つづりで発売
- 価格は乗車券10回分の値段
- 発駅・着駅(乗車する区間の両端の駅)で発売
- 有効期間は3か月
10回分の値段で11回乗車できますので、普通にきっぷを買って乗車するのに比べて、1割近くお得になります。
回数券と通勤定期券を比べると、ここまででご紹介した通勤定期券の損益分岐点が、少し変わってきます。
一方、回数券の一番のデメリットは、磁気券(紙のきっぷ)であるということでしょう。いまや、定期券はICカードタイプのものが主流ですが、回数券は磁気券なのです。磁気券がゆえに、以下のようなデメリットがあります。
- 乗車するたびに、紙の回数券を取り出して改札機に入れる必要がある
- 乗り越した場合には、ICカード乗車券と異なり、自動改札機での清算ができず、窓口等で清算する必要がある
通勤定期券が明らかに割高になる場合、例えば、週に1~2回ほどしか出社しない場合などには、回数券の利用を考えてみてもよいでしょう。
通勤定期券の払い戻しルールと払い戻し額の計算方法
すでに購入済みの通勤定期券を払い戻すべきかを判断するときには、払い戻した場合に、どのくらいのお金が戻ってくるかを知っておく必要があります。
ここでは、首都圏の主要鉄道会社の通勤定期券の払い戻し額の計算方法を紹介します。
通勤定期券の払い戻しは1か月単位
すでに利用開始した通勤定期券は、1か月単位で払い戻すことができます。定期券の残りの利用期間が1か月を切っている場合には、払い戻すことはできません。
通勤定期券の払い戻し額は、利用を開始した定期券の「使用月数」によって決まります。
なお、「使用月数」は、定期券を利用した月数のことで、1か月に満たない日数は1か月に切り上げます。
- 利用開始日から20日間利用した定期券 → 使用月数は「1か月」
- 利用開始日から1か月と3日利用した定期券 → 使用月数は「2か月」
通勤定期券の払い戻し額は、以下の通りです。
- 使用月数: 1か月
- (定期旅客運賃) - (1か月定期旅客運賃) - (手数料)
- 使用月数: 2か月
- (定期旅客運賃) - (1か月定期旅客運賃)×2 - (手数料)
- 使用月数: 3か月
- (定期旅客運賃) - (3か月定期旅客運賃) - (手数料)
- 使用月数: 4か月
- (定期旅客運賃) - (3か月定期旅客運賃 + 1か月定期旅客運賃) - (手数料)
- 使用月数: 5か月
- (定期旅客運賃) - {3か月定期旅客運賃 + (1か月定期旅客運賃)×2} - (手数料)
(定期旅客運賃)は、利用を開始した通勤定期券を購入したときの価格です。(手数料)は、JR東日本をはじめ、首都圏の主要鉄道会社では220円のところが多いようです。
この計算式からわかるように、6か月の定期券を2か月利用したからといって、6か月定期券の6分の4の額が返ってくるわけではありません。使用月数分の定期券を新たに購入した場合の購入額に手数料を加えた額 の分を利用したとみなして、残りの部分が返金されるようになっています。
通勤定期券の払い戻し額の計算例
例として、JR東日本の通勤定期券の払い戻し額を計算してみましょう。
上のほうで紹介した電車特定区間で、距離27㎞の6か月の通勤定期券の払い戻し額は、以下のようになります。
使用月数 | 定期旅客運賃 (6か月) |
払い戻し額 | 利用した額 |
---|---|---|---|
1か月 | 67,980円 | 53,590円 | 14,390円 |
2か月 | 67,980円 | 39,420円 | 28,560円 |
3か月 | 67,980円 | 27,390円 | 40,590円 |
4か月 | 67,980円 | 13,220円 | 54,760円 |
5か月 | 67,980円 | 0円 | 68,930円 |
1か月の通勤定期券の価格は14,170円、3か月は40,370円、6か月は67,980円です。
上の表を見てみると、使用月数5か月、すなわち、6か月定期券の残りが1か月の場合には、払い戻し額がありません。これは、5か月分の定期券を、3か月定期券+1か月定期券×2 という形で購入するよりも、6か月定期券を購入したほうが安いためです。
実際、筆者は、新型コロナウイルスの影響でほぼ在宅勤務になったとき、6か月定期券の1か月分が余っていた(使用月数=5か月だった)のですが、払い戻してもお金が返ってこないことがわかり、そのまま持っていることにしたのでした。
もちろん、これはJR東日本の電車特定区間、距離27kmの場合の例ですので、鉄道会社や距離が異なれば、状況は変わってきます。主要鉄道会社の通勤定期券の払い戻し額の計算方法は、ほぼ上記と同じようですので、各自で計算してみてください。
なお、通勤定期券の区間を変更する目的で払い戻す場合には、1か月単位ではなく、10日単位の旬割計算が適用されます。(通勤定期券の区間変更という制度はなく、いったん払い戻して、新たな定期券を購入することになります)
通勤定期券、払い戻したほうがお得?
手持ちの通勤定期券の有効期間が1か月以上残っているときに、在宅勤務やテレワークを始め、通勤する日数が減る場合には、通勤定期券を払い戻したほうがよいのでしょうか?
払い戻し額と今後の通勤の頻度を比べてみよう
通勤定期券を払い戻すべきなのかを判断するためには、以下の二つを比べる必要があります。
- 通勤定期券の払い戻し額
- 今後の通勤の頻度(回数)
通勤定期券の払い戻し額は、先ほどご紹介したとおりです。
今後の通勤の頻度は、例えば月に何回くらい出社する可能性があるか、ということです。これがわかると、通勤定期券を利用しないで通勤した場合に支払う運賃が計算できます。
- (1か月の通勤に必要な運賃) = (一月の通勤回数) × (片道の普通運賃) × 2
この「1か月の通勤に必要な運賃」と、いま手持ちの通勤定期券の払い戻し額を比べてみましょう。通勤定期券の払い戻し額のほうが大きいようでしたら、払い戻しをしてしまったほうがよいでしょう。
あまり差がないようでしたら、通勤定期券をそのまま持っておくことをおすすめします。通勤定期券は、通勤経路内での途中下車ができますので、通勤以外の用事でも利用することができるためです。
「在宅勤務・テレワーク増加で通勤定期券はどうする? 普通のきっぷとの損益分岐点、定期券の払い戻しルールを紹介!(首都圏版)」でした。在宅勤務やテレワークの期間が長引きそうですので、この記事を参考に、通勤定期券をどうするのかを検討してみてください。
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