宮城県の槻木駅と福島県の福島駅を結ぶ「阿武隈急行線」。田園風景が続く長閑なローカル線ですが、丸森~梁川間では阿武隈川の流れを車窓から眺めることができます。2019年の台風被害で長期運休となっていましたが、2020年10月末に全線で運転を再開。そんな阿武隈急行に乗車してきましたので、乗車記をお届けします。
阿武隈急行 阿武隈急行線とは?
阿武隈急行は、宮城・福島の両県とその沿線自治体が出資する第三セクターの鉄道会社です。
その阿武隈急行が運行するのが「阿武隈急行線」。宮城県の槻木(つきのき)駅と福島県の福島駅の54.9kmを結ぶ路線です。全線が単線で、交流電化の路線です。
阿武隈急行線の前身は、1968年に槻木~丸森間で部分開業した国鉄丸森線です。その後、福島~丸森間での工事も進められていましたが、1981年に国鉄の第1次特定地方交通線に認定され、廃止の危機に。その後、国鉄丸森線と、工事が進捗していた福島~丸森間を引き継いだのが、第三セクターの阿武隈急行だったのです。
1986年に国鉄丸森線が廃止され、槻木~丸森間が阿武隈急行線として開業。1988年には福島~丸森間も開業し、現在の阿武隈急行線が完成しました。
阿武隈急行は、槻木側の槻木~丸森間と、福島側の福島~梁川間は運転本数が多いですが、中間部分の丸森~梁川間は運転本数が少なくなっています。乗車の際には、あらかじめ時刻表を確かめておきましょう。阿武隈急行線のダイヤは、阿武隈急行のWebサイトでご確認ください。
阿武隈急行の乗車におすすめのフリーきっぷ
阿武隈急行では、阿武隈急行線が乗り放題となるフリーきっぷを何種類か発売しています。日にち・曜日限定で割安なフリーきっぷを利用できる場合もありますので、おでかけの際には確認しておくとよいと思います。
- 「阿武急の日」フリー乗車券
- 発売期間: 毎月第1日曜日、元日、鉄道の日(10月14日)
- 利用期間: 発行日のみ有効
- 価格: 大人600円 小児300円
- 発売箇所: 福島・保原・梁川・丸森・角田の各有人駅、車内(車掌乗車の場合)
- あぶ急トクだねきっぷ
- 発売期間:
- 利用期間: 毎月9のつく日
- 価格: 大人900円 小児450円
- 発売箇所: 福島・保原・梁川・丸森・角田の各有人駅、車内(車掌乗車の場合)
阿武隈急行線の槻木~福島全線を乗りとおすと、運賃は980円になります。上記のいずれも、片道を乗りとおすだけでお得になりますので、利用できる日であれば、ためらわずに購入することをおすすめします。
なお、槻木駅ではフリーきっぷを購入することはできないようです。ワンマン運転の列車では、車内で購入することもできません。このような場合には、下車駅や途中下車駅で購入しましょう。念のため、乗車時に整理券をとっておくことをおすすめします。
阿武隈急行のお得なきっぷについては、阿武隈急行のWebサイトをご確認ください。
【阿武隈急行 乗車記1】槻木駅から新型車両「AB900系」に乗車!
仙台から東北本線の普通列車に乗り、阿武隈急行線の起点駅、槻木駅にやってきました。槻木駅は、1番線と3番線が東北本線、2番線が阿武隈急行線となっています。2番線と3番線は同一ホームでの乗り換えが可能です。阿武隈急行線は、かつて国鉄の路線だった名残でしょうか。中間改札なども特にありません。
槻木駅の2番線には、すでに阿武隈急行の列車が停車しています。2019年にデビューした新型車両「AB900系」の2両編成です。東北本線の普通列車「E721系」(上の福島行きの列車)にそっくりですが、それもそのはず。AB900系は、E721系をベースに開発された車両なのです。
車両側面にはLEDの行先表示があり、「ワンマン 丸森」と表示されています。
1両目と2両目の間には、両側の車両にまたがって、大きな「A」の文字が描かれています。阿武隈急行の「A」でしょうか。
車内も、E721系とそっくりで、3つあるドアの間に、それぞれ、4人掛けのボックスシートが左右2つずつ、ドア横には2人掛けのシートがあります。
1両目(福島寄りの車両)の最後部には、車椅子対応のトイレが設置されています。これも、E721系と同様ですね。
【阿武隈急行 乗車記2】東北本線と分かれて田園風景を進む
15時02分、丸森行きの普通列車は、2両で10名に満たない乗客で槻木駅を発車。
槻木駅から東北本線の下り線に沿って南側へ向けて走ります。白石川を渡るとすぐに東北本線の下り線から離れ、上り線をオーバークロスしていきます。
東北本線と分かれると、すぐに車窓には田んぼが広がります。阿武隈急行線は、中間部分の丸森~梁川間以外は、このような田園風景の車窓が続きます。
阿武隈急行線は、大まかには阿武隈川に沿っているのですが、丸森付近以外では少し離れています。そのため、車窓から阿武隈川を見ることができないのですが、阿武隈川に流れ込む小さな川をいくつも渡っていきます。
槻木から13分ほどで角田(かくだ)駅に到着。阿武隈急行の沿線では、福島をのぞくと最も大きな町です。乗降客数も多いため、有人駅となっています。
角田駅の近くには「角田市スペースタワー・コスモハウス」があり、実物大のH-IIロケットの模型があります。写真には撮れませんでしたが、車窓からも東側(丸森・福島方面行きでは進行方向左側)に見ることができます。
角田、南角田と住宅地が続きますが、南角田から先は再び田園風景に。
車窓に低い山が目立つようになってくると、この列車の終点、丸森駅に到着しました。槻木駅からわずか22分の旅です。
【阿武隈急行 乗車記3】「阿武急の日」フリー乗車券を購入して梁川行きの「8100系」に乗車
前述のとおり、丸森駅は、国鉄丸森線時代の終着駅でした。駅舎の内部も国鉄時代の面影を残しています。
今回乗車したのはちょうど第1日曜日で、「阿武急の日」フリー乗車券が利用できる日。槻木駅では購入できなかったですし、丸森までの列車もワンマンでしたので、この丸森駅での乗り換え時間で購入しました。同じように、フリーきっぷを購入している方が何名かいました。
乗り継ぎの列車まで25分ほど時間があったので、駅舎の外に出てみました。丸森駅の駅舎は、国鉄のローカル駅そのものですね。
しばらく駅舎を眺めていると、梁川方面からの列車が到着しました。数名の乗客が下車し、改札を出てくるのが見えたので、ホームへ向かいます。折り返し、15時50分発の梁川行きの列車になるようです。
梁川行きの列車は、「8100系」という車両。1988年に阿武隈急行線が全線開業したときにあわせて製造された車両で、すでに30年以上が経過しています。
車内に入ると、赤いモケットのボックスシートが並びます。先ほどまで乗ってきたAB900系と同じボックスシートなのですが、30年の時代の差を感じさせます。
8100系は2両編成ですが、車両と車両の間には扉がなく、このように開放されています。今では珍しいと思いますが、以前は地下鉄などで見られましたね。
車両側面の行先表示はLEDです。おそらく交換されたのではないかと思います。
【阿武隈急行 乗車記4】阿武隈急行の車窓のハイライト! 阿武隈川のゆったりとした流れを眺めながらの旅
15時50分、各車両、数名の乗客を乗せて、梁川行きの列車が発車しました。
丸森駅を出ると、山間部へ入っていきます。阿武隈川がつくった谷に沿って進むため、車窓から阿武隈川を見ることができます。
阿武隈川は、全長239kmに及ぶ大河です。東北地方では北上川に次ぐ長さだそうです。那須近辺に源流を発し、福島県内を北へ流れ、岩沼市で太平洋に注いでいます。
阿武隈川は南から北へ流れているので、梁川行きの列車は、阿武隈川の流れをさかのぼるように進んでいきます。
丸森駅と、次のあぶくま駅の中間くらいのところで、阿武隈川を渡ります。ここから先、進行方向右側(梁川・福島方面行きの場合)に、しばらく阿武隈川を眺めながらの旅となります。
光線の関係なのか、川の水質の関係なのか、深い緑色の川面が印象的です。
あぶくま駅を出ると、いったん、阿武隈川から離れていきます。蛇行する阿武隈川に夕陽があたって、とてもきれいな瞬間でした。
富野駅あたりで阿武隈川とはお別れ。山地を抜けて、福島盆地へ入ってくると、視界が開け、再び田園風景が広がるようになります。
次の乗り継ぐ列車は、富野駅が始発なのですが、何もなさそうだったので、この列車の終点、梁川駅まで乗っていくことにします。
富野駅の次は「やながわ希望の森公園前駅」。ひらがなで16文字のこの駅名は、日本で5番目に長いそうです。長い駅名のためか、駅名板も横長でとても大きなものになっています。
定刻より3分ほど遅れて、16時20分ごろ、この列車の終点、梁川駅に到着しました。
【阿武隈急行 乗車記5】再び阿武隈川を渡り福島の市街地へ!
次に乗り継ぐ福島行きの列車まで少し時間があるので、改札の外へ出てみます。
梁川駅には阿武隈急行の本社があるほか、駅の南側に車両基地もあり、阿武隈急行の運行の拠点となっています。そのためか、駅舎もなかなか立派です。
梁川駅は1面2線の島式ホームになっていて、ホームと駅舎は構内踏切でつながっています。改札口の外には、すぐ構内踏切があります。
もちろん有人駅で、列車が到着するたびに、駅員さんが構内踏切の前まで出て、きっぷを回収しています。
駅舎の中には駅蕎麦屋もありましたが、お正月だからか、営業終了時刻を過ぎているためか、閉まっていました。
改札を入って、ホームで列車を待っていると、仙台行きの直通列車が入ってきました。1日に2往復、朝と夕方に運転される列車で、槻木駅から東北本線に入って仙台駅まで直通します。土休日限定なのか、「ホリデー宮城おとぎ街道号」という大きなヘッドマークを掲げていました。この仙台行きの列車は4両編成でした。
16時40分発の福島行きの列車が入ってきました。丸森駅から、この梁川駅まで乗車したのと同じ形式の8100系です。前述のとおり、富野駅始発の列車ですが、先客は2~3名のみ。この梁川駅からは10名程度乗り込みました。
梁川駅を出発すると、すぐに車両基地の横を通過します。
すでに日没後で、西の空が赤く染まっています。梁川駅からしばらくは、田んぼが広がる田園風景が続きます。
向瀬上(むかいせのうえ)駅を出ると、しばらく車窓から離れていた阿武隈川を渡ります。この阿武隈川の橋を境に、車窓は田園風景から住宅街へ。駅間距離も短くなり、福島への通勤通学圏に入ってきたことを実感させます。
17時09分、終点の福島駅に到着しました。阿武隈急行の福島駅は、福島交通飯坂線とホームを共用しているのが面白いですね。写真の左側に停車しているのは飯坂温泉行きの電車です。
これは、阿武隈急行が第三セクターとして設立された当初、福島交通が株式の過半数を保有していたことに由来しているようです。
ということで、後半は日没後で暗くなってしまいましたが、阿武隈急行線の旅を無事に終えました。
以上、「【阿武隈急行 乗車記】阿武隈川の車窓が美しい宮城・福島の長閑なローカル線!」でした。基本的に田園風景の中を走る区間が多いですが、その中でも、丸森~梁川間の阿武隈川の眺めは、車窓のアクセントになっています。起点・終点ともに東北本線の駅ですので、比較的乗車しやすい路線でもあります。福島・宮城へお出かけの際には、ぜひ乗車してみてください。
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