JR北海道は、2024年3月のダイヤ改正で、主要4特急「北斗」「おおぞら」「とかち」「すずらん」を全車指定席化して座席未指定券を導入、札幌~旭川を結ぶ特急「ライラック」「カムイ」では自由席車を減車することを発表しました。ここ数年の流れといえばそれまでですが、北海道を鉄道で旅をするときに大活躍する特急列車に乗り放題のフリーきっぷの扱いがどうなるのかなど、気になるところもあります。
この記事では、2024年3月ダイヤ改正でのJR北海道の主要特急全車指定席化の話題について、現時点でわかっていることをまとめます。
※JR北海道からの正式発表がありましたので、きっぷ関連の取り扱いについて追記・修正しました(2023.11.15)
JR北海道の主要4特急を全車指定席化、「ライラック」「カムイ」の自由席車は4両→2両へ
JR北海道は、2024年3月のダイヤ改正で、主要4特急「北斗」「おおぞら」「とかち」「すずらん」を全車指定席化して、座席未指定券を導入します。また、札幌~旭川を結ぶ特急「ライラック」「カムイ」の自由席を現状の4両から2両に減らします。
- 「北斗」「おおぞら」「とかち」「すずらん」を全車指定席化、座席未指定券を導入
- 「ライラック」「カムイ」の自由席を4両から2両へ減車
全車指定席化の目的として、JR北海道のニュースリリースでは、以下のポイントを挙げています。
- 指定席数が増えることで着席機会を高める
- 乗車前からホームで長時間並ぶことを避ける
- 始発駅に近い方が座れるという不公平感を解消する
- 車内改札を省略し、ゆっくりと車内で過ごせるようにする
詳しくは、以下のJR北海道のニュースリリースをご覧ください。
以下では、今回のJR北海道の特急列車の全車指定席化について、詳しく見ていきます。
「北斗」「おおぞら」「とかち」「すずらん」を全車指定化
今回、全車指定席化、自由席減車の対象となる特急列車の編成は以下のとおりです。以下の表は基本編成で、繁忙期などは増結されたり、編成が変更になることもあります。
列車名 | 普通車指定席 | 普通車自由席 | グリーン車 | |
---|---|---|---|---|
北斗 | 現行 | 2両 | 2両 | 1両 |
改正後 | 4両 | 0両 | 1両 | |
おおぞら | 現行 | 2両 | 1両 | 1両 |
改正後 | 3両 | 0両 | 1両 | |
とかち | 現行 | 2両 | 1両 | 1両 |
改正後 | 3両 | 0両 | 1両 | |
すずらん | 現行 | 2両 | 3両 | - |
改正後 | 5両 | 0両 | - | |
ライラック | 現行 | 1.5両 | 4両 | 0.5両 |
改正後 | 3.5両 | 2両 | 0.5両 | |
カムイ | 現行 | 1両 | 4両 | - |
改正後 | 3両 | 2両 | - |
長距離の特急列車としては「北斗」(札幌~函館)、「おおぞら」(札幌~釧路)、「とかち」(札幌~帯広)が該当しますが、現在はそれぞれ1~2両ある自由席がなくなります。
一方、「すずらん」(札幌~東室蘭・室蘭)は長距離の特急列車とは言い難く、通勤利用も多い列車です。現在でも自由席が3両あり、特急列車に乗車できる定期券での通勤利用も多そうなので、影響が大きそうです。
なお、繁忙期等で増結される場合も、全車指定席化される4列車については、全車指定席で運転されるとのことです。
全車指定席化に伴うきっぷ関連の変更内容
主要な特急列車が全車指定席化されるのに伴い、座席未指定券の導入、お得なきっぷの見直し、特急定期券「かよエール」の見直しなどが行われます。
全車指定席の特急列車では「座席未指定券」を導入
全車指定席化する特急列車「北斗」「おおぞら」「とかち」「すずらん」では、乗車する列車や座席を指定しない「座席未指定券」を導入します。
- 乗車する列車が未定の場合は「座席未指定券」を発売(指定席特急券と同額)
- 「座席未指定券」で乗車する場合には、空いている座席を利用できる(その座席の指定席券をもつ乗客が乗車したら席を譲る必要がある)
- 「座席未指定券」は乗車前に追加料金なく座席指定に変更可能(指定席券売機など)
JR東日本の首都圏の特急列車で導入されている「新たな着席サービス」と同じサービスとなる模様です。
JR東日本では「新たな着席サービス」導入時に、指定席特急券・座席未指定券の価格を、以前の指定席と自由席の間の価格に設定しましたが、JR北海道ではこれまでの指定席特急券の価格に統一されます。
JR東日本の特急列車に導入されている「新たな着席サービス」については、以下の記事で紹介しています。
全車指定席化後のお得なきっぷは「えきねっとトクだ値」に一本化
全車指定席化される「北斗」「おおぞら」「とかち」「すずらん」のお得なきっぷは、「えきねっとトクだ値」「お先にトクだ値」に一本化されます。
- 発売終了するきっぷ
- 乗車券往復割引きっぷ
- 北斗オプション特急券
- すずらんオプション特急券
「えきねっとトクだ値」「お先にトクだ値」については、以下のように設定区間や期間が拡大します。
- 「えきねっとトクだ値」の設定区間拡大
- 「お先にトクだ値」を通年設定
- 「北斗」「おおぞら」「とかち」「すずらん」に設定
- イールドマネジメントシステムを導入
イールドマネジメントシステムは、乗車する列車の予測乗車率によって、きっぷの価格が変更するシステムです。これまで、「えきねっとトクだ値」「お先にトクだ値」は、いったん設定されたきっぷの価格は固定されていて、設定の都度、割引率や期間を変えていましたが、今後は価格自体が動的に変更するシステムに移行するようです。
「えきねっとトクだ値」「お先にトクだ値」については、以下の記事でまとめていますので、ぜひご覧ください。(今回のJR北海道の変更についても、詳細が発表され次第、追記・修正していきます)
石勝線 新夕張~新得間は普通車指定席の空席を利用可能に!
普通列車が運転されていないため、乗車券のみで特急列車の自由席に乗車できることになっている石勝線の新夕張~新得間ですが、全車指定席化後は、普通車指定席の空いている座席 を利用できることになります。
おそらく、青春18きっぷや北海道&東日本パスにもこのルールが適用されるでしょうから、青春18きっぷの旅では、今回の全車指定席化の影響はなさそうです。
特急定期券「かよエール」は「かよエール+」(プラス)へ
全車指定席化する特急列車「北斗」「おおぞら」「とかち」「すずらん」の運転区間での特急定期券「かよエール」は、全車指定席化以降、「かよエール+」にリニューアルされます。
- 「かよエール+」では、指定を受けないで乗車する場合には空席を利用可能
- 「かよエール+」では、乗車日の3日前から話せる券売機、駅のみどりの窓口で、追加料金なく座席指定を受けることができる
- 「かよエール」では、グリーン料金券の追加でグリーン車に乗車できたが、「かよエール+」では運賃のみ有効となり、別途、特急料金+グリーン料金が必要となる
なお、全車指定席化の対象外となる特急列車では、現状の「かよエール」の発売が継続され、自由席に乗車することができます。
以下では、JR北海道の発表とは別に、筆者の感想・想像も含めて述べていきます。
JR北海道の目的は特急料金の実質的な値上げと車内改札コストの削減?
今回のJR北海道の特急列車の全車指定席化は、建前としては「長距離の特急列車で確実に着席したいという要望に応える」ということになっていますが、JR北海道の目的としては、特急料金の実質的な値上げ、チケットレスへの誘導、車内改札の削減でしょう。
全車指定席化で特急料金を実質値上げも効果は?
全車指定席化で特急料金は実質的に値上げとなります。
JR北海道の在来線特急列車では、普通車指定席は自由席よりも530円高くなっています。長距離利用であれば、確かにプラス530円で確実に着席できるメリットが勝りそうですが、短距離を自由席で利用していた乗客からすると、かなりの値上げになってしまいます。
例えば、札幌~室蘭の自由席特急料金は1,830円ですが、指定席特急料金は2,360円と、30%近い値上げになってしまいます。
また、札幌~旭川を結ぶ「ライラック」「カムイ」では自由席は残るものの、それぞれ4両から2両に減らされます。今までどおり自由席に乗車しようとすると、混雑して着席できないことも増えるでしょうから、指定席に乗車する乗客が増えることを狙っているのかもしれません。
一方で、長距離を走る「北斗」や「おおぞら」では指定席の利用が多く、もともと自由席の割合は少なめなので、全車指定席としたところで、JR北海道の収入に与える影響は限定的だと思われます。
実質的には、短距離の特急利用で指定席へ誘導することで、短距離を利用する乗客からの特急料金収入を増やすことを狙っているのではないかと思います。
近距離利用は割引のあるチケットレス特急券へ誘導か
近距離の特急利用では、全車指定席化でかなりの値上げとなってしまいますが、JR北海道は札幌圏を中心に「チケットレス特急券」を設定しています。
普通車指定席に乗車できる「チケットレス特急券」は、札幌~岩見沢で35%引き、札幌~苫小牧で20%引きなどとなっています。別途、乗車券が必要ですが、交通系ICカード(Kitakaなど)のエリア内ですので、完全にチケットレスで特急列車の指定席に乗車することができます。
「すずらん」の全車指定席化や、「ライラック」「カムイ」の自由席の減車にあたっては、「チケットレス特急券」をアピールして、指定席への乗車を促すのではないかと思います。後述する車内改札の削減の効果も見込めますので。
車内改札のコスト削減、いずれはワンマン化も?
もう一つ考えられる目的としては、車内改札のコスト削減です。
JR東日本の首都圏の特急列車ではすでに全車指定席化が実施されていますが、指定された座席に座っている限りは、車掌が指定席特急券を確認することはありません。一方で、自由席では、乗客が特急券を所持しているかを確認せざるを得ないうえに、特急券を買わずに飛び乗ってくる乗客への対応も必要となります。
JR北海道の特急列車でも、全車指定席とすることで、基本的に車内改札を実施しない方向にしたいのではないかと思います。
最終的には、JR九州の特急列車で実施されているような、特急列車のワンマン運転化も視野に入れているのかもしれません。そこまでいかなくても、車掌が乗務する区間を限定するといったことは考えているかもしれません。
「宗谷」「サロベツ」「オホーツク」「大雪」は対象外
今回の全車指定席化の中に、宗谷本線の「宗谷」「サロベツ」、石北本線の「オホーツク」「大雪」が含まれていません。長距離の特急列車で確実に座席を……というのなら、そこそこ混雑している「宗谷」が対象になるべきだと思うのですが、そうなっていません。
その理由の一つが、宗谷本線や石北本線では普通列車の本数がきわめて少ないため、特急列車を実質的に普段使いしている乗客がそれなりにいるからでしょう。普通列車の代わりに利用する場合には短距離利用が主となるでしょうから、全車指定席化の弊害が大きいと思われます。
また、特急停車駅でも無人駅があることも、全車指定席化への障害になっている可能性があります。指定席券を持っていないと乗車できないにもかかわらず、特急停車駅で指定席券を購入することすらできないのでは、特急列車を使うなと言っているようなものです。
もっと穿った見方をすると、宗谷本線(名寄~稚内)と石北本線は、いわゆる「黄線区」となっていて、JR北海道は、鉄道の存続を前提に、沿線自治体の支援を受けたいとして、これから交渉に入る路線です。そんな路線で、沿線住民が普通列車代わりに特急列車を利用しづらくなるような全車指定席化は避けておきたいという思惑もあるのかもしれません。
JR北海道の特急乗り放題のフリーきっぷはどうなる?
乗り鉄の観点から最も気になるのは、JR北海道が発売しているフリーきっぷの扱いです。
JR北海道が発売している「北海道フリーパス」「ひがし北海道フリーパス」「きた北海道フリーパス」は、特急列車の自由席に乗り放題、指定席には回数限定で乗車できるようになっています。
指定席に乗車できるのは、北海道フリーパス(7日間有効)が6回、ひがし北海道フリーパス(4日間有効)が5回、きた北海道フリーパス(3日間有効)が4回です。
あちこちで観光しながら鉄道で移動するような使い方であれば、不足することはないかもしれませんが、鉄道に乗ることを目的とした旅行では、「北斗」や「おおぞら」が全車指定席となると、指定席に乗車できる回数が足りなくなるかもしれません。
実は、2023年10月から、「ひがし北海道フリーパス」「きた北海道フリーパス」の内容と価格が変更になっています。「ひがし北海道フリーパス」は、今年度の上期と下期(10月~)で、以下のように変更になっています。
2023年度下期 | 2023年度上期 | |
---|---|---|
指定席 | 5回まで | 利用不可 |
有効期間 | 4日間 | 4日間 |
価格 | 20,000円 | 17,380円 |
※「ひがし北海道フリーパス」については、以下の記事で詳しく紹介していますので、ぜひご覧ください。
「ひがし北海道フリーパス」「きた北海道フリーパス」では、これまで特急列車の指定席には乗車できなかったのですが、2023年10月以降は、指定席に5回まで乗車できるように変更になっています。それに合わせて、価格も大幅に上がっています。
この変更は、今回の主要特急列車の全車指定席化を見据えたものだったのでしょう。そうだとすると、全車指定席となる特急列車が増えても、現状のフリーきっぷでの指定席の乗車回数が大幅に増えることは考えにくいですね。
同じく、指定席の乗車回数に制限のある「大人の休日倶楽部パス」の扱いがどうなるのかも気になるところです。
以上、「【JR北海道】主要特急列車を全席指定化・座席未指定券を設定、札幌~旭川間は自由席を減車へ! 特急乗り放題フリーきっぷはどうなる?」でした。JR北海道からの正式発表がありましたが、フリーきっぷの扱いなど、気になる点も残されています。2024年のダイヤ改正まで注目していきたいと思います。
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JR北海道のお得なきっぷのまとめ記事です。本文でも取り上げた「北海道フリーパス」「ひがし北海道フリーパス」「きた北海道フリーパス」をはじめ、鉄道旅行、乗り鉄に便利なきっぷを紹介していますので、ぜひご覧ください。
コメント
一応えきねっとの割引を設定することで救済してはいますが、えきねっとの割引設定区間から外れる区間に何の救済もなっていないのが問題だと思います。これには「森~函館」や「白糠~釧路」のような短距離乗車も含まれますし、かなり重大な問題だと思います。
「該当列車のすべての特急停車駅間で」割引を設定すべきだと思います。
リリースをよく見たら「えきねっとトクだ値の設定区間拡大」とは書いてありました。
ただ、これが全特急停車駅間で設定されるのかが気になるところです。(リリース中には主要駅間のものしか載ってなかった)
コメントありがとうございます。
えきねっとトクだ値は、席数限定なのもきになるところですね。
あまりに席数が少ないと、割引で乗れる人はごくわずか、なんてことにもなりかねないので。
結局、JR北海道は特急利用区間のすべてにはえきねっとの割引を設定することはしませんでした。
京葉線の特別快速の話じゃないですが、沿線自治体はクレーム入れるべきでしょう…特に、函館への割引の設定がされない森町や、室蘭への割引の設定がされない伊達市・洞爺湖町、札幌への割引の設定がされない夕張市や占冠村などは。