2023年8月下旬に開業したばかりの「宇都宮ライトレール」に乗車してきました。開業してから2週間後の日曜日でしたが、大勢の乗客で賑わい、開業直後の雰囲気を味わうことができました。混雑により遅れ気味ではありましたが、新しいLRTの車両は快適で乗り心地も抜群! 地元の人たちの利用も多く、地域の交通機関としてすでに根付いているように感じます。
この記事では、開業間もない「宇都宮ライトレール」の乗車記をお届けします。
次世代型路面電車「宇都宮ライトレール」とは?
「宇都宮ライトレール」は、2023年8月26日に開業した新しいライトレール路線です。「ライトレール」(国交省の定義では「次世代型路面電車」と呼ぶ)は、バスや従来の路面電車よりも輸送力が高い次世代の路面電車のことです。低床型の車両が利用されることで、バリアフリー性に優れていることも特徴の一つです。
宇都宮ライトレールは、そんな「ライトレール」(次世代型路面電車)の新規路線として開業しました。ライトレール路線が新規に建設されるのは、日本では初めての事例であり、その点でも注目されています。
2023年8月26日に開業した「宇都宮ライトレール」の路線概要は以下のとおりです。
- 区間: 宇都宮駅東口~芳賀・高根沢工業団地(14.6km)
- 停留場数: 19
- 設備保有者: 宇都宮市・芳賀町
- 運営者: 宇都宮ライトレール株式会社(第三セクター)
現在は、宇都宮駅東口~芳賀・高根沢工業団地間の14.6kmのみが「優先区間」として開業しています。整備計画としては、宇都宮駅西口方面への延伸計画もあります。
宇都宮ライトレールは、設備を宇都宮市・芳賀町が保有し、その設備を利用して、第三セクターの宇都宮ライトレール株式会社が運営する上下分離方式を採用しています。
宇都宮ライトレールについては、宇都宮ライトレールのWebサイトをご確認ください。
【宇都宮駅】ホームから溢れそうな人が待つ宇都宮駅東口停留場
この日は、青春18きっぷを利用して、宇都宮線で宇都宮駅へ。宇都宮駅に到着したのは14時半過ぎでした。改札口を出て東口へ。跨線橋を渡ると、宇都宮ライトレールの宇都宮駅東口停留場があります。
上から見てみると、この人! さほど広くはない宇都宮駅東口停留場のホームは、人で溢れそうになっています。次の電車を待っているのでしょう。
開業直後は一度乗ってみたいという乗客で大賑わいだったというニュースを見ましたが、すでに開業から2週間。そろそろ開業直後の賑わいも落ち着いたのではないかと思ってやってきたわけですが、まったくそんなことはありませんでしたね……。
まだ列車がやってきていないのと、ものすごい混雑でしたので、少し様子を見ようと東口の広場へ下りてみます。すると、宇都宮駅東口行きのライトレールが入ってきました。
大勢の乗客を乗せた電車が入ってきました。黒をベースとした車体に黄色のラインが入った車両はなかなかカッコいいですね。「HU300形電車」という形式だそうです。 ”H"は芳賀、"U"は宇都宮、"3"は3両連接であることを示すのだそうです。
それにしても日曜日の午後だというのに、大混雑! 乗客もホームで待つ人も、みな手を振ったり、写真を撮ったりで、開業後のお祭りのような賑わいが続いているようです。
いったん跨線橋にのぼり、エスカレータでホームへ降りてみます。やはりすごい人! 先ほど入ってきた電車から乗客が全員下車したことを確認したあと、いったんドアを閉め、発車準備をしてからドアが開いて乗車できるようになります。
この電車、途中の「平石」という停留場止まりのようです。途中駅までの電車なんて昼間にあったかな? と思って乗り込んでみると、「本日に限りまして、平石止まりとなります」とのアナウンス。大幅に遅れているようで、車両基地のある平石で折り返しという形にするのでしょう。
途中駅止まりの電車ではありますが、とりあえず乗ってみることにしました。
【宇都宮駅東口~平石】鬼怒通りの真ん中を走って平石停留場へ
宇都宮駅東口の駅前広場を急な左カーブで抜けると、県道64号線(通称: 鬼怒通り)に出ます。ここから平石の手前あたりまでは、この鬼怒通りを東へと進んでいきます。
宇都宮ライトレールの線路は道路の中央に敷かれていて、線路が敷かれているところは、自動車は通行できないようになっています。いわゆる併用軌道ではありますが、昔ながらの路面電車とは異なり、線路が敷かれているところは専用線のような形になっています。
停留場は交差点の前後に、千鳥配置で設けられています。全ての停留場が、ほぼ同じデザインで統一されています。屋根が設けられているのもうれしいですね。
そして、ホームと線路が敷かれている面との段差がとても小さいのがわかるでしょうか? 超低床電車を導入しているため、このような小さい段差になっているのです。
停留場から交差点の横断歩道までは、柵に囲われた通路が設けられていて、歩道から停留場まで安全に歩くことができます。道路とホームの間はとても傾斜の緩いスロープでつながっていますので、車椅子やベビーカーでも問題なく上り下りができそうです。このあたりは、路線バスよりも優れていますね。
ずっと道路の中央に敷かれた線路を走ってきましたが、平石の手前で専用軌道へ。高架を上っていきます。
専用の高架線から平石停留場への下りです。下り切ったところに平石停留場があります。
終点の平石停留場に到着しました。下車する前に車内の様子を撮影してみました。ボックスシートが並びますが、車端部には横向きの優先席も設けられています。
乗降扉は両開きで、扉の両側に、それぞれ乗車用と降車用のICカードリーダーが設置されています。宇都宮エリアで導入されている交通系ICカードの「totra」(トトラ)が使えます。「totra」は交通系ICカードと相互利用可能ですので、Suicaなどの交通系ICカードでも乗車できます。
ワンマン運転のライトレールですが、全ての扉から乗降できるようになっています。
このように、扉の両側にICカードリーダーが設けられています。乗車時に緑色(下側)の「乗車用」にタッチし、降車時に黄色(上側)の「降車用」にタッチします。
平石停留場の様子です。2面4線の退避設備のある停留場です。この右奥のほうには車両基地があります。その関係もあってか、朝晩には平石停留場発着の電車も運転されています。
宇都宮ライトレールでは、開業直後は暫定ダイヤでの運転となっていますが、2024年度に予定している本格ダイヤでは、運転本数の増加に加えて、快速運転が予定されています。退避設備がある平石停留場では、おそらく快速電車が各駅停車を追い越す様子が見られることになりそうです。
なお、前述のように、今回乗車した電車が平石止まりになったのは遅延の影響と思われます。このあと、留置線に引き上げていきました。
【平石~グリーンスタジアム前】鬼怒川を渡り田園風景の中を走る
次の電車がやってきました。終点の「芳賀・高根沢工業団地」行きです。宇都宮駅東口停留場のホームで、終点まで直通するこの電車を待っている人がたくさんいたので予想はしていましたが、車内は大混雑!
あまり写真を撮ることもできなかったので、復路の車内から撮影した写真も交えて、車窓を紹介していきます。
平石停留場を発車すると、国道4号線の下をくぐって、平石中央小学校前に到着。その後、「鬼怒川橋梁」で鬼怒川を渡ります。この鬼怒川橋梁はライトレールの専用軌道。ライトレールのために新設された橋です。宇都宮ライトレールの沿線では随一の車窓を見ることができるところです。
鬼怒川橋梁を渡り終えたところが飛山城跡の停留場です。近くには、宇都宮氏の家臣、芳賀氏の居城であった飛山城跡があります。
この鬼怒川を渡る前後では、宇都宮ライトレールの中でも、もっとものどかな車窓が広がります。この時期は、黄金色に色づいた田園風景が続きます。
田園風景を抜けると、清陵高校前停留場に到着。停留場のすぐ南側に県立宇都宮清陵高校があります。その東側には、作新学院大学もあります。停留場の北側は工業団地が広がりますが、その周辺には教育・文化施設も多く揃っているエリアのようです。高校・大学へ通う学生さんたちも、宇都宮ライトレールを利用しているのでしょう。
次の「清原地区市民センター前」の停留場は、「トランジットセンター」の一つで、路線バスなどとの乗り換えができるようになっています。ちょうど、ジェイアールバス関東の路線バスが停車していました。
宇都宮ライトレールの開業に伴って新設された、清原トランジットセンターと真岡鉄道の市塙駅を結ぶ路線バスでしょうか。他にもタクシーが停まっていたり、その奥にはパーク&ライド用の大きな駐車場も見えますね。
栃木県グリーンスタジアムがある「グリーンスタジアム前」停留所に停車します。このあたりは緑が多く、公園のようになっているところもあります。
この付近は併用軌道ということになっているようですが、道路脇に線路が敷かれていて、専用軌道に近いものになっています。
【ゆいの杜~芳賀・高根沢工業団地】ゆいの杜地区を抜けて終点の工業団地へ
「ゆいの杜西」停留場から、再び幹線道路の真ん中に敷かれた併用軌道を走ります。ゆいの杜地区は、「宇都宮テクノポリスセンター」として開発されたニュータウンで、住宅街や商業施設に加えて、先ほど通ってきた清原工業団地や、宇都宮ライトレールの終点となる芳賀工業団地に隣接しています。
ゆいの杜地区には、ゆいの杜西、ゆいの杜中央、ゆいの杜東と3つの停留場がありますが、地元の利用者と思われる降車がそれなりにありました。混雑していた車内も少しずつ空いてきました。
宇都宮市街地への路線バスの本数が少なかったこのあたりの住民からすると、宇都宮駅まで30分ほどで到着する宇都宮ライトレールは非常に便利なのではないかと思います。現在の暫定ダイヤでも日中は12分間隔で運転されています。今でこそ遅延が常態化していますが、事業者・住民ともに慣れてきて遅延が解消されれば、渋滞に影響されずに運行できるライトレールは、とても便利な交通機関になりそうです。
「芳賀町工業団地管理センター前」停留場に到着。この停留場も、路線バスとの乗り換えができるトランジットセンターの一つです。
ジェイアールバス関東の路線バスに乗り換えることができ、真岡鉄道の市塙駅や茂木駅へと出ることができます。路線バスの本数が少ないのが残念ですが、前述の清原地区市民センター前発着のバスとあわせれば、平日はそれなりの本数になります。
芳賀町工業団地管理センター前停留場の先を左折します。交差点には、ライトレール用の黄色の矢印信号も設置されていますね。
他にも、ライトレールの線路が交差点を渡るところには、電車連動型の信号機が設置されていました。ライトレールの電車がやってくると、クルマの信号は全方向赤になって、ライトレールが安全に通過できるようになっているようです。
この先は、芳賀工業団地に入っていきます。ライトレールは、かなり急な坂を難なく下っては上っていきます。加速性能も良く、かなり性能の高い車両のようです。ここまで、陸橋や鬼怒川橋梁の前後に勾配がありましたが、道路自体が大きくアップダウンしているのはここだけです。
奥に「HONDA」とかかれた建物が見えますが、このあたりはホンダの工場が密集してエリアです。住宅地はあまり見当たらないので、先ほどの芳賀町工業団地管理センター前から終点の芳賀・高根沢工業団地までは、この工業団地にお勤めの方が多く利用するのでしょう。
終点の「芳賀・高根沢工業団地」に到着しました。途中の平石で乗り継いだこともあって、宇都宮駅東口から約1時間の旅でした。
芳賀・高根沢工業団地停留場の周りは工場だけしかなく、他には何もありません。
道路を渡ったところから撮ってみました。車体には「LIGHT LINE」(ライトライン)とかかれていますが、これは車両の名称のようです。ライトレールの"LIGHT"と「雷都」をかけたものなのだとか。
10分ほどあたりをうろうろしたり、写真を撮ったりしていましたが、まだ発車する様子がありません。乗ってきた次の電車で戻ろうと思っていたのですが、ホームに戻ってみると、まだ現金精算の乗客の下車が終わっていなかったようです。
1往復乗車しただけなので何とも言えませんが、遅延の原因は、終点での折り返しに時間を要することと、現金精算の乗客の対応に時間がかかることの2つだと感じました。
周囲には工場以外何もないので、折り返しの電車に乗って帰ることにしました。
ということで、現在開業している宇都宮駅東口~芳賀・高根沢工業団地間を1往復乗車してきました。速度は40km/h以下ということで、決して「速い」乗り物ではありませんが、併用軌道でも専用のレーンが確保されていますし、信号も優先されているようですので、道路を走るものの渋滞の影響を受けにくい交通機関になっているようです。そもそも、自動車からライトレールに切り替える人が増えれば、それで渋滞緩和になりますね。
2024年度には運行本数の増加や快速運転の開始などが予定されています。さらに、軌道法上の特認を得て、専用軌道での最高速度を70km/hに引き上げることも検討されているとのこと。車両はすでに70km/h運転に対応できるものになっているそうです。
今後もさらなる発展が予定されていますので、期待したいですね。
宇都宮ライトレールはコンパクトシティの中核を担う交通機関となるか?
鉄道ファンとしては、日本初の新規ライトレール路線の開業ということで注目ですが、個人的には、ライトレールのようなLRTを中心とした街づくりがどのように進んでいくのかにも興味があります。
宇都宮市は、将来の都市構想として「ネットワーク型コンパクトシティ」を目指しています。中心市街地、産業拠点、観光拠点などをコンパクトに集約し、それらの拠点間を公共交通機関で結ぶという構想です。宇都宮ライトレールは、拠点間を結ぶ中核的な交通機関として位置づけられているようです。
今回、乗車してみて、そのポテンシャルは十分にありそうだなと感じました。まだ開業直後の、いわゆる「特需」の状態だとは思いますが、すでに芳賀工業団地にあるホンダの拠点が、通勤バスの運行を取りやめてライトレールに移行するといった動きも出てきているようです。
宇都宮市は人口50万人を超える北関東No.1の大都市です。東北地方を含めても、宇都宮市の人口を超えるのは仙台市しかありません。そんな大きな都市が、コンパクトシティの構想を掲げて、その移動のインフラとなるライトレールを開業させたという点は、非常にインパクトのあることだと考えます。
おそらく、似たような街づくりの構想は、ある程度の規模の都市であれば検討していると思われます。ただ、実際に実現に向けて動いている都市は多くはないでしょう。宇都宮ライトレールが地域に根付く交通機関となり、ネットワーク型コンパクトシティが進展するのであれば、それに続く都市が現れるかもしれません。
そんな観点でも、宇都宮ライトレールが今後どのように発展していくのか、注目していきたいと思います。
以上、『【宇都宮ライトレール 乗車記】開業で賑わう宇都宮ライトレールに乗車! 大幅遅延も乗り心地は上々!』でした。開業特需で賑わう中での乗車でしたが、地元の方々の乗車も多く、今後も期待できそうですね。
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