北上駅と横手駅を結ぶローカル線、北上線。広々とした北上盆地、たっぷりと水をたたえた錦秋湖、そして、山深い湯田高原と、それほど長くはない路線ながら変化に富んだ車窓を楽しめます。今回、冬の青春18きっぷで北上線に乗車してきましたので、美しい雪景色の車窓とともに乗車記をお届けします。「雪見鉄」にピッタリの路線です。
北上線とは?
北上線は、岩手県の北上駅と秋田県の横手駅を結ぶJR東日本の路線です。全長61km、15の駅があり、全線が単線・非電化です。
全線を走る列車は1日に6.5往復。1両~2両の気動車が走ります。快速列車もありますが、通過するのは小松川駅のみです。
コロナ前の2019年度の輸送密度が271人/日、2021年は218人/日と、かなりのローカル線です。特に、西側のほっとゆだ~横手間は67人/日と、いつ廃止になってもおかしくない状況です。2022年3月のダイヤ改正では、平石駅と矢美津駅が廃止になりました。
一方で、東北本線と奥羽本線を短絡する重要な路線でもあります。今でこそローカル輸送に特化していますが、かつては、仙台と秋田方面を結ぶ特急列車が走っていました。また、秋田新幹線工事のために田沢湖線が長期に渡って運休していた時には、特急「秋田リレー号」が北上~秋田間で運転されていました。その後も、東北本線が不通となったときには、寝台列車が迂回したこともあります。
ローカル線の存廃議論が盛んになる中、今後の行く末が気になる路線なのです。
それはともかく、北上線は比較的短い路線ながら、広々とした田園風景が広がる北上盆地から、湯田ダムによって形成された錦秋湖、山深い湯田高原など、変化に富んだ車窓を楽しめます。今回は、冬の青春18きっぷで北上線に乗車してきましたので、雪景色の北上線の車窓をお届けします。
【北上駅】北上駅0番線から発車!
12月下旬、平日朝の北上駅です。すでに通勤、通学の時間帯にかかっていて、北上駅へ入っていく人がぽつぽつと見られます。
北上線の列車は、北上駅の0番線から発車します。0番線のホームは、東北本線が利用する1番線の北側(盛岡寄り)に、1番線ホームを切り欠く形で設けられています。北上線専用のホームです。
0番線のホームから見るとこんな感じです。1番線には大勢の人が列車を待っていますが、0番線ホームにはほとんど誰もいません。
7時25分頃、北上線の列車が入ってきました。4つ先の藤根駅始発の北上行きの列車です。この列車が、折り返し、7時38分発の横手行きとなります。
車両はキハ100系気動車。JR東日本の非電化区間ではよく見かける気動車ですが、キハ110系に比べると車体が短めです。一ノ関~気仙沼を結ぶ大船渡線と共通運用されているようです。
車内は4人掛けのボックスシートが並びます。ドア脇はロングシートになっています。JR東日本の普通列車用の気動車は、片側が2人掛けになっている場合が多いのですが、北上線を走るキハ100系は両側ともに4人掛けです。
発車までの間に、高校生が数人乗り込んできて、1両に数名という乗車率で北上駅を発車しました。
【北上~岩沢】雪原となった北上盆地を西へ疾走!
北上線の列車は北上駅を発車すると、すぐに東北本線と分かれて西へ進路を取ります。住宅地にある柳原駅、江釣子駅などからは、高校生がぽつぽつと乗ってきます。北上の市街地への通勤とは逆方向なので、通勤客はあまり乗ってきません。
列車は北上盆地の中を疾走していきます。一面、雪原のようになっていますが、雪の下は田んぼでしょう。夏になれば、一面緑色になるはずです。
藤根駅で北上行きの列車と行き違いです。北上行きの列車のほうが明らかに乗客が多いですね。
和賀川に注ぐ小さな川を渡ると横川目駅です。このあたりまで来ると、住宅は少なくなってきます。次第に低い山が左右から迫ってきて、広々としていた北上盆地も終わりのようです。
横川目駅を出ると、和賀川を渡ります。和賀側は、北上水系の一級河川で、北上駅の少し南側で北上川に合流します。その後、蛇行しながら南下して、石巻市で太平洋に注いでいます。東北一の大河ですね。
岩沢駅に到着。だいぶ積雪が増えてきました。この古い学校みたいな建物は何でしょう? 岩沢駅の北側に見えました。
【錦秋湖】北上線の車窓のハイライト! モノトーンの錦秋湖へ
岩沢駅を出ると、列車は山間部へと入っていきます。山といってもそれほど高いものではありませんが、北上盆地の平坦な景色とは全く違いますね。北上駅を出発してからまだ30分も経っていませんが、車窓は大きく変わっていきます。
和賀仙人駅を出ると、いよいよ進行方向右側の車窓には錦秋湖が見えてきます。先ほどまで晴れ間が出ていたのに、あっという間に灰色の雲に覆われてしまいました。雪が積もっている地面や山肌の白色と、錦秋湖の湖面や針葉樹の黒だけが車窓を飾る、まさにモノトーンの世界です。錦秋湖の湖岸近くの湖面は凍っていますね。
短いですが、動画でもどうぞ。
北上線の錦秋湖の車窓。
凍っているところもありますね。 pic.twitter.com/h4hNrPTJbT— ひさ@乗り鉄/登山ブログ (@kz_hisa) December 26, 2022
こんな景色のところを、北上線の列車はかなりの速度で走っていきます。北上線は線形が比較的良いようで、結構飛ばすのですよね。
トンネルを抜け、南側から錦秋湖に流れ込む和賀川の支流を渡ると、ゆだ錦秋湖駅に到着です。
車内はというと、通学の高校生たちが結構乗っています。年末のこの時期、学校は休みだと思うのですが、部活動や補修があるのでしょうか?
ずっと錦秋湖の南岸を走ってきましたが、ゆだ錦秋湖駅とほっとゆだ駅の間で錦秋湖を渡ります。錦秋湖は細長い形をしているので、どこまでが湖(ダム湖)なのかわかりづらいですね。
進行方向左側に移った錦秋湖を眺めながらの旅が続きます。いかにも寒々しい景色ですが、車内はとても暖かいのです。これが雪見鉄の醍醐味ですね。
8時22分頃、ほっとゆだ駅に到着しました。ここで、たくさん乗っていた高校生たちがみんな下車し、車内は閑散としてしまいました。私は2両編成の後ろの車両に乗っていましたが、他には2名のみ。北上線の利用状況が、ほっとゆだ駅を境にして東西で大きく異なるのは、高校生の通学利用の有無が大きそうです。
ほっとゆだ駅の駅舎には温泉が併設されています。途中下車して温泉で温まるのもよさそうですね。
【ほっとゆだ~横手】山深い湯田高原を抜けて内陸の横手へ
ほっとゆだ駅を出発すると、遥か頭上に架かる高架橋をくぐっていきます。秋田自動車道です。北上から横手までは北上線とほぼ並行しています。
北上線はローカル線の中では線形が良い方ではありますが、秋田自動車道は1991年(平成3年)の開通。トンネルや高架でほぼ直線的に作られているので、所要時間ではとてもかなわないでしょう。ローカル線の利用客の減少には、少子高齢化だけでなく、むしろ並行する高速道路や国道の整備が影響しているのです。
そんなことを考えているうちに、列車はどんどん山の中へと入っていきます。民家はほとんど見えなくなりました。
ゆだ高原駅から黒沢駅あたりまでは、蛇行する小さな川を何度も渡ります。この川は黒沢川といって、この先で横手川に合流します。横手側は、秋田市で日本海に注ぐ雄物川水系の支流。錦秋湖まで並走していた和賀側は太平洋に注ぐ北上川水系ですので、湯田高原のあたりが分水嶺になっているようです。
列車は、次第に山間部から抜けて横手盆地へと入っていきます。北上盆地では雲一つない快晴だったのに、湯田高原を超えた横手盆地はどんよりとした曇り空で、たまに雪が舞うような天気です。
相野々駅を発車すると列車は横手の市街地へと入っていきます。左側から奥羽本線の線路が近づいてきます。
8時51分、北上駅から1時間10分ちょっとで、終点の横手駅に到着しました。表定速度は約50km/hと、ローカル線にしてはかなり速い北上線なのでした。
乗車時間は長くはありませんが、北上盆地から錦秋湖、湯田高原を経て横手盆地へと西へ向けて走る北上線の列車に乗っていると、変化に富んだ車窓を楽しむことができます。太平洋に近い北上は晴れ、内陸の横手は雪が舞う空模様。こんなお天気の変化を楽しめるのも列車の旅の良いところですね。
一方で、北上線の利用状況の少なさを感じた旅でもありました。特に、通学利用の高校生が下車するほっとゆだ駅から西側は、2両編成の列車に乗客は4~5人のみ。ローカル線の存続問題が取りざたされる中、今後が心配になってしまいました。
以上、『【北上線 乗車記】冬の錦秋湖、モノトーンの車窓が美しい雪景色の北上線!』でした。1時間強の乗車時間ながら、変化に富んだ車窓を楽しめる北上線。冬のモノトーンの車窓を、暖かい車内からのんびりと眺める旅も良いものです。
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